【事案分析】一人の勇気より組織の連帯を。法律が求める「職員の協力義務」という最強の防具

皆さま、こんにちは。事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。

2026年5月、福岡の街は「どんたく」の賑わいに包まれ、活気に満ちあふれています。私は現在、福岡市医師会看護専門学校の専任講師や安全対策サポートアドバイザーとして、日々医療現場のガバナンスと向き合っています。

前回のブログでは、ある病院の裁判事例を引き合いに、「仲間を大切にすること」がいかに組織防衛に直結するかをお話ししました。今日はその続編として、「なぜ仲間と共に立ち向かわなければならないのか」を、より実務的、かつ法的な視点から掘り下げてみたいと思います。

キーワードは、「組織一体」。そして、法律が私たちに求めている「協力」という義務です。


1.法律が定める「職員の協力義務」という視点

ハラスメント対策というと、「病院(経営側)がやるべきこと」ばかりが注目されがちですが、実は法律には、現場で働く皆さま一人ひとりに関わる重要な一文があります。

それが、改正された「労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)」です。この法律の第30条の2第4項には、要約すると以下のような内容が記されています。

「労働者は、ハラスメントの問題に対する関心と理解を深め、他の労働者に対する言動に注意を払うとともに、事業主(病院)が講じるハラスメント防止措置に協力するよう努めなければならない

つまり、職場環境を良くしていくことは、経営陣の義務であると同時に、現場で働くすべての職員の「努力義務」として法的に位置づけられているのです。

「仲間を大切にする」ことは、単なる仲良しグループを作ることではありません。法律が求めているのは、組織がハラスメントという外敵や内なる歪みから職場を守ろうとするとき、職員全員がその設計図の一部となり、協力し合うという「プロフェッショナルとしての連帯」なのです。


2.「個人」では守れない、「組織」でしか守れない理由

なぜ、法律はあえて職員の「協力」を求めているのでしょうか。それは、ハラスメントという問題の本質が、個人レベルの努力では決して解決できない「環境の病」だからです。

私が警察署長として、あるいは医療安全対策アドバイザーとして数々の事案を分析してきた経験から言えるのは、一人の職員が理不尽な攻撃にさらされているとき、その職員個人に「毅然と対応しろ」と強いるのは酷であり、かつ不可能です。

相手が執拗なクレーマーであれ、悪質な嫌がらせをする者であれ、一対一の状況ではどうしても「立場」や「心理的圧力」に屈してしまいます。しかし、そこに「組織の壁」があれば話は変わります。

  • 情報の共有による「多角的な分析」
  • 複数名対応による「心理的優位の確保」
  • 組織としての「統一された意思表示」

これらはすべて、仲間が協力し、情報を上げ、組織がそれを受け止めるという「一体となった動き」があって初めて機能します。一人ひとりが「自分には関係ない」と傍観者になれば、その隙間からハラスメントは侵入し、組織を内側から崩壊させていくのです。


3.「協力」が「要保護性」を完成させる

私が提唱する、業務が法的に守られる価値がある状態、すなわち「要保護性(ようほごせい)」の確立においても、この協力義務は欠かせません。

病院が「うちは職員を守るために、やるべきことをやっています」と胸を張って警察や司法に訴えるためには、現場の職員が組織のルールに従い、報告・連絡・相談を徹底しているという事実が必要です。

もし、現場の誰かが勝手な判断で理不尽な要求に屈したり、情報を隠したりしてしまえば、組織としての「一貫性」が損なわれ、せっかくの法的な盾(要保護性)にヒビが入ってしまいます。「仲間を大切に」して協力し合うことは、自分たちの業務の正当性を証明し、外部からの不当な攻撃を跳ね返すための「法的武装」そのものなのです。


4.前回の教訓:なぜ「証言台の空白」は生まれたのか

前回のブログで触れた、ある病院の裁判事例を思い出してください。ハラスメントで退職した看護師の方々が、誰一人として病院側の証人として現れなかったあの悲しい事実です。

もし当時、パワハラ防止法が掲げる理念のように、病院と職員が「職場を守るために協力し合う」という実感を共有できていたなら。もし、病院が講じた防止措置に、職員が「これは自分たちのためのものだ」と納得して協力できていたなら……。

「仲間を大切にする」という文化は、有事の際に「事実を語る」という最高の協力となって返ってきます。逆に言えば、平時にこの協力関係を築けていない組織が、有事にだけ「助けてくれ」と言っても、仲間の心は動かないのです。協力義務とは、一方的な押し付けではなく、互いの信頼を土台にした「双方向の設計図」でなければなりません。


5.シバケン流:仲間を守るための「3つの協力アクション」

では、具体的に「法律に基づいた協力」とは何を指すのか。設計士の視点から3つのポイントを挙げます。

  1. 「違和感」という情報の提供 些細な揉め事や「おかしい」と感じたことを、すぐに報告してください。それは告げ口ではなく、組織という砦のひび割れを教える「早期警戒アラート」です。
  2. 「孤立」させない援護 同僚がハラスメントを受けている場面に遭遇したら、すぐに加勢するか、上司を呼んできてください。一人で対応させない。その姿勢が、法律が求める「他の労働者への注意払い」の実践です。
  3. 「ルール」という共通言語の遵守 病院が決めたハラスメント対応マニュアルを遵守してください。個人の勝手な判断による妥協は、組織全体の防衛ラインを崩します。全員が同じルールで動くこと。それが最大の協力です。

結びに:ワンダフルな職場は、全員が主役です

職場環境を守る主役は、院長だけでも、事務長だけでもありません。そこで働く皆さま一人ひとりが、隣の仲間を守り、組織を支える主役なのです。

「仲間を大切にすること」は、巡り巡って、あなた自身の安全と、あなたが提供する医療の質を守ることにつながります。法律が「協力しなさい」と言っているのは、それが皆さまを守るための唯一の、そして最も合理的な方法だからです。

風通しを良くし、情報を共有し、組織一体となってハラスメントに立ち向かう。その誇り高き連帯こそが、どんな荒波にも負けない「不落の医療現場」を創り上げます。

ワンダフル!な職場環境を、今日から共に設計していきましょう。


【ご相談・お問い合わせ】 「組織一体となったハラスメント対策を構築したい」「職員の協力体制を強めるための研修を検討している」など、どのようなことでもお気軽にご相談ください。 具体的なケースでお困りの方は、「柴田ガバナンス研究所」公式ホームページのお問い合わせフォームよりご連絡をお待ちしております。元警察署長としての実戦的な知見をもって、全力で皆さまの後ろ盾となります。

事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)


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