【新時代の危機管理】仏作って魂入れず。マニュアルを“生きた盾”に変える「トップの背中」と「出口の設計」

皆さま、こんにちは。 事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。

大型連休が終わり、初夏のやわらかな風が福岡の街を包む5月。ようやく日常のリズムが戻ってきたという方も多いのではないでしょうか。

一方で、連休明けのこの時期は、現場の空気が少し不安定になりやすい時期でもあります。連休中の疲れや小さな行き違いが重なり、それが思わぬトラブルやハラスメントへと発展することも少なくありません。私は連休中も、「どうすれば現場の職員を守れるのか」「どうすれば組織が迷わず、かつ柔軟に判断できるのか」を考え続けていました。

今日は、危機管理の現場で非常によく見かける、ある深刻な課題についてお話ししたいと思います。それは―― 「立派なマニュアルがあるのに、現場では全く機能しない」という問題です。

古くから「仏作って魂入れず」という言葉がありますが、危機管理の世界でもまさに同じことが起きています。どれほど立派な制度や書類を整えても、そこに“現場を守る意思”や“実際に動ける戦略”がなければ、本当に困ったときに職員を支えることはできません。


■ マニュアル作成が「ゴール」になっていませんか?

私は警察官として37年、そして現在は医療機関のアドバイザーとして、多くの現場に関わってきました。その中で感じるのは、カスタマーハラスメント対策に真剣に取り組もうとする組織ほど、「マニュアル整備」に全精力を注いでしまうという点です。

もちろん、ルールを明文化することは大切な第一歩です。しかし、時として「マニュアルを作ること」が目的になってしまい、「実際にどう現場で活かすか」という視点が薄れてしまうケースがあります。

例えば、実際に受付で理不尽な怒声が上がったとき、スタッフの方はマニュアルの何ページを開くべきか迷っている暇はありません。危機管理の本来の目的は、書類を整えることではなく、「現場が迷わず動けること」。その一点に尽きます。

■ 「きれいごと」では現場は守れない

多くのマニュアルには、「丁寧に対応しましょう」「相手の話を傾聴しましょう」といった基本姿勢が並んでいます。しかし、現場では想定外の事態が次々に起きます。

突然の怒声、長時間の居座り、執拗な不当要求……。職員が恐怖で頭が真っ白になるような極限状況では、こうした理想論は無力です。現場で本当に必要なのは、「今、この状況で、組織としてどこまで対応し、どこで線を引くのか」という、もっと泥臭い「運用の知恵」なのです。

■ 「魂」とはトップの決断であり、日々の振る舞いである

マニュアルに「魂」を入れるために最も必要なもの。それは「トップ(理事長・院長)の覚悟」です。

「職員を守るために、必要な場面では毅然と対応する。その判断責任はすべて私が負う」 この姿勢が明確であって初めて、現場は安心して本来の業務に専念できます。

そして、もう一つ忘れてはならない極めて重要なことがあります。それは、「職員はトップの日頃の言動や振る舞いを、鋭く見ている」ということです。

いかに立派なマニュアルを掲げても、日頃のトップが不当な要求に妥協していたり、職員の痛みに無関心であったりすれば、職員は「最後は自分たちに押し付けられる」と直感します。トップが日頃から何を大切にし、どう職員に接しているか。その積み重ねこそが、有事の際にマニュアルを本物の盾へと変える「魂」になるのです。


■ 現場を支える「実働的運用」:3つのシバケン・メソッド

では、実際に現場で機能する運用とはどのようなものか。私は特に次の3つの視点が重要だと考えています。

① 「なすべき範囲と程度」を事案ごとに決める

現場対応に絶対的な正解はありません。やるべきこと(義務)の範囲は、事案によって「ゴムマリ」のように伸縮するものだからです。 大切なのは、一律の基準に縛られるのではなく、「今回のケースでは、どこまで寄り添い、どの程度まで対応するのか」をその都度、組織として戦略的に決定することです。この「今回はここまでやる」という範囲が明確になることで、現場の迷いは消えます。

② 最悪の場合を見据えた「出口戦略」の設計

対応の範囲を決めるのとセットで、「どう終わらせるか」という落としどころをあらかじめ描いておく必要があります。 「説明を尽くしても納得しない場合は、この時点で対話を打ち切る」「暴力が生じた際は、即座に警察へ通報する」といった、最悪の場合のシナリオを共有しておくこと。ゴールが見えているからこそ、現場は冷静に、かつ毅然と対応できるのです。

③ 日々の対話と「伴走型」の共有

単発の研修だけでは、現場の感覚は育ちません。実際に起きた事例を振り返りながら、「あの時、どう判断すべきだったか」「組織として何を共有すべきか」を繰り返し対話していく「伴走型」の教育が必要です。 その積み重ねが、組織全体の判断力を高め、マニュアルを「知識」から「反射」へと変えていきます。


■ 「安心して働ける現場」をつくるために

私が長年の警察経験を経て、現在こうした活動を続けている理由は、とてもシンプルです。現場で懸命に働く方々に、安心して仕事をしてほしい。その思いに尽きます。

危機管理とは、単にトラブルを防ぐためだけのものではありません。「現場が安心して働ける環境をつくること」。それこそが、本当の意味でのガバナンスです。

「マニュアルはあるが、現場が迷っている」 「職員が疲弊している」 「組織としての判断軸を整えたい」

そんな悩みをお持ちの皆さまと、私はこれからも一緒に考え、伴走していきたいと思っています。元警察署長としての実戦的な知見を、貴院のカラーに合わせてカスタマイズし、共に「不落の現場」を設計しましょう。

皆さまの現場が、より安心で、より強い組織となることを願っております。

事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)

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