執筆:事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)
■ はじめに:「毅然とした対応」という言葉に隠された真実
医療現場の最前線で働く皆さま、日々、理不尽な嵐の中で本当にお疲れ様です。 今日は、研修や対応マニュアルで耳にタコができるほど出てくる「毅然とした対応」という言葉についてお話しします。多くの皆さまが「そんなのは理想論だ」「現実はそんなに甘くない」と感じているかもしれません。
しかし、断言します。「毅然とする」とは抽象的なスローガンではなく、相手を圧倒し、現場を沈静化させるための極めて「現実的な実戦技術」なのです。
1.取り調べ室の教訓:相手はあなたの「自信」を見ている
私が現職時代、暴力団の取り調べなどで骨身に染みて学んだことがあります。それは、相手(被疑者)は、こちらの言葉以上に、こちらの「自信(オーラ)」を如実に感じ取っているということです。
「お前のことは全部調べている。証拠はすべて揃っている」
この前提に立って取り調べに臨むとき、その自信は直接口に出さずとも相手に伝わります。逆に、心の中で「ここはまだ裏付けが弱いな」と一瞬でも怯(ひる)めば、相手はそれを見逃しません。
まさに、ことわざで言う「武士は食わねど高楊枝」の精神です。たとえ内心で不安を抱えていても、それを微塵も表に出してはいけません。腹の内では汗をかいていても、表向きは悠然と、淡々と、絶対に負けないという気概を秘めて立つ。この「誇り」と「自信」に基づいた振る舞いこそが、相手に「この場所で理不尽は通用しない」と悟らせる最大の武器になるのです。
2.「寄り添い」は呪縛ではない。それは「二つの愛」への進化
「患者さんに寄り添う」という理念を、自分たちを縛り付ける「呪縛」にしてはいけません。これからの医療現場に必要なのは、寄り添いの対象を広げる「意識改革」です。
- 患者さんへの寄り添い: 良質な医療を提供するための基本です。
- 職員自身・職場環境への寄り添い: 理不尽な攻撃から自分たちを守り、安全な環境を維持するための「自分たちへの愛」です。
ハラスメント対策において「やるべきことをやる」というプロセスの中には、当然、患者さんへの適切な寄り添いも含まれます。しかし、それを尽くしてもなお攻撃を続ける相手に対しては、速やかに「職員への寄り添い」に軸足を移し、組織防衛へと舵を切る必要があります。この切り替えこそが、真の寄り添いなのです。
3.「ゴム鞠理論」:膨らんだ義務の完遂が「最強の盾」になる
「毅然とした対応」を下支えするのが、私の提唱する「ゴム鞠(ごむまり)理論」です。「やるべきことをやる(義務の履行)」という範囲は、事案の内容やこちらの過失の有無に応じて、ゴム鞠のように大きく膨らんだり、小さくなったりします。
例えば、重大な医療ミスや注意義務違反が発生した場合、なすべきケア、誠実な説明、再発防止策の提示といった義務(ゴム鞠)は巨大に膨らみます。この「膨らんだゴム鞠の境界線」までを、組織としてやり遂げることが重要です。
やるべきことをやり切ったという自負があるからこそ、その線を超えて不当な要求を続ける相手に対し、私たちは「武士は食わねど高楊枝」の精神で、一切の迷いなく毅然とした対応を繰り出せるのです。
4.実戦技術:状況に応じた「二つのベクトル」3つの運用パターン
日本医師会が指摘した「境界線」を実務で運用するために、「応対のベクトル(接遇)」と「対策のベクトル(防衛)」の使い分けを整理します。
- 【通常型】義務の完遂後に「切り替える」パターン ゴム鞠の膨らみに合わせて「やるべきこと(応対)」を全力で行います。その範囲をやり遂げてもなお不当な要求が続く場合、即座に「対策のベクトル」へと切り替えます。
- 【緊急型】違法行為により「即座に停止」するパターン 大声、威圧、暴力などの犯罪性を帯びる外形的な行為が発生した場合、応対のベクトルは即座に停止させ、対策のベクトル一色へと完全に切り替えます。 無理に接遇を続ける必要はありません。
- 【特殊型】紛争事案における「同時並行」パターン 賠償額などを詰める「紛争事案」が想定される場合、法的手続きを進めること自体が「やるべきこと」となります。しかし、適切な手続きが進行しているにもかかわらず現場で嫌がらせが続く場合、紛争処理(応対)を進めながら、同時にハラスメント拒絶(対策)を発動するという、並行した対応が必要になります。
5.結びに:安全なくして、良質な医療はなし
日本医師会が安全神話の終焉を突きつけている今、医療業界全体が意識を変えるチャンスです。
「寄り添い」という素晴らしい理念を、自分たちを守るための盾にも変えてください。組織として方針を決め、やるべきことをやり抜く。たとえ不安があろうとも、現場では「武士は食わねど高楊枝」の気概を持って凛と立つ。
この確固たる自信こそが、カスハラ ポスターや既存の対応マニュアルに命を吹き込みます。 シバケンは、皆さまがその「自信」を持って現場に立てるよう、これからも実戦的な設計図を届け続けます。
ワンダフル! (シバケンだけに)な解決の先には、安全で静かな待合室と、職員の皆さまの笑顔が必ず待っています。
【事案分析と解決の設計士:柴田 建一(シバケン)】
37年の法執行現場経験と、現在の医療安全支援の知見を融合。 「現場を守り、組織を強くする」ための具体的な解決策をご提案します。
