【医療現場のカスハラ対策】2026年10月施行の改正法に備える!患者の理不尽な要求(ペイハラ)からスタッフを守る組織ガバナンスとリスク管理の設計図

【本文】

皆さん、こんにちは!「事案分析と解決の設計士」こと、シバケン(柴田建一)です。

新緑の青葉が目に眩しい季節となり、福岡の医療現場でも新年度の慌ただしさが少しずつ落ち着き、実務への集中が高まる時期をお迎えのことと拝察いたします。私、シバケンも今月から「事案分析と解決の設計士」として、より多角的な視点から地域の医療・看護の現場を支える活動に注力しております。

さて、本日は病院経営の中核を担う理事長、院長、事務局長、 そして管理職の皆様に向けて、本年10月に施行を控えた改正法への対応と、それを機とした「組織のレジリエンス(復元力)強化」についてお話しさせていただきます。

1. 2026年10月、医療経営に求められる「雇用管理上の新たな基準」

これまで「接遇」や「ホスピタリティ」という個人のマナーや努力に委ねられがちだったハラスメント対策が、今まさに大きな転換期を迎えています。

本年10月、改正された「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(労働施策総合推進法)」が施行されます。この改正により、医療機関の事業主には、患者やそのご家族からの著しい迷惑行為(ペイシェント・ハラスメント、以下ペイハラ)に関し、「雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(※法律原文のまま)という義務が課されることとなりました。

これは、ハラスメント対策を単なる福利厚生の一環としてではなく、組織の持続可能性を担保するための「経営上の必須要件」として定義し直すものです。2023年9月の労災認定基準の改正を含め、現在は「職員の心身の安全を組織としていかに守るか」という仕組みの有無が、経営の安定性を左右する重要な指標となっています。

💡 あわせて読みたい関連記事

【日本医師会が警告】カスハラ対策マニュアルの死角!法改正後の医療安全と「境界線のゴム鞠理論」https://shibaken-poli.com/wp-admin/post.php?post=413&action=edit

2. なぜ「救急医療」の事例が、医療経営全体の羅針盤となるのか

今回の発信において、私はあえて救急医療の現場で起きている事象を重点的に取り上げています。それは、救急医療が医療現場における「最も高い負荷がかかる状況」を象徴しており、そこでの対策が医療業界全体のリスク管理における「標準モデル」となり得るからです。

救急医療の現場は、一分一秒の判断が求められる極限状態です。福岡地域では令和6年の救急出動が初めて10万件を突破し、非常に過密な対応が続いています。このような高負荷な環境下でペイハラが発生し、診療の手が止まることは、単なる現場の混乱にとどまりません。救急という「社会インフラ」の機能が一時的にでも損なわれることは、組織全体の安全管理体制が試される瞬間でもあります。

救急医療という「極限の負荷試験」において、いかにして職員の安全を確保し、診療の質を維持するか。その基準を確立することは、一般の外来、病棟、あるいは地域のクリニックにおける日常的なリスク管理をより強固なものにするための、最も確実な近道なのです。

3. 「反射的な対応」から「組織的なガバナンス」への転換

対人トラブルの最前線で学んだ重要な教訓の一つに、「状況が整理される前の不用意な対応は、かえって事態を複雑化させる」というものがあります。

医療現場では、不当な要求や暴言に対しても、その場を穏便に収めようとして場当たり的に対応してしまうことが少なくありません。しかし、ハラスメント気質の相手にとって、根拠の曖昧な譲歩は「次も要求が通る」という心理的な呼び水となってしまう懸念があります。

経営者や管理職の皆様に今求められているのは、現場に対して個人の「忍耐」を求めることではありません。むしろ、「何に対しては真摯に対応し、何に対しては毅然とした説明を行うか」という、組織としての明確な判断基準(境界線)を提供することです。これが、現場のスタッフが離職を思いとどまり、自信を持って診療に専念できる環境づくりの第一歩となります。

4. 抽象的な指針を、自院の「具体的な資産」として再設計する

10月の法施行に向け、国からのガイドラインも順次示されますが、それらは汎用性を高めるためにどうしても抽象的な表現に留まります。「どこまでの言動がハラスメントに該当するのか」「診療拒否の正当事由をどう定義するか」といった具体的な判断は、各医療機関が自院の特性に合わせて、専門家の知見を取り入れながら策定していく必要があります。

日本医師会でも、以下の四つの課題を挙げていますが、これらを組織のインフラとして整備することが推奨されます。

  • リスク察知の組織化: 現場の違和感を早期に共有し、孤立させない仕組み。
  • 対応窓口の一本化: 現場担当者から管理職、あるいは専任担当者へ速やかに引き継ぐプロセス。
  • 情報のリアルタイム共有: リスク情報を組織全体の「共通知」として活用する仕組み。
  • 境界線の明文化: 診療の継続が困難となる基準をあらかじめ規定し、周知する。

特に重要となるのが、診療記録に加えて「安全管理上の客観的な記録(証拠化)」を蓄積することです。神戸地裁平成28年3月14日の判決が示す通り、事態の推移を詳細かつ事務的に記録していたことが、組織の正当性を証明する最大の資産となりました。

5. 99.9%の信頼を守るための「組織リソースの最適化」

経営的な観点から見れば、医療機関が保有する「人材」や「時間」というリソースは極めて貴重な経営資源です。

患者の99.9%は、医療者の献身を理解し、共に治療に励んでくださる善良な方々です。しかし、ごく一部、0.1%にも満たない理不尽な振る舞いが、組織全体のリソースの多くを奪い、他の患者へのサービス提供に影響を及ぼしているとしたら、それは組織運営における効率性の阻害要因と言わざるを得ません。

不当な要求に対して「組織として適切に一線を引く」ことは、決して排除の論理ではありません。それは、本来守るべき圧倒的多数の患者に対して、質の高い医療を継続的に提供するための「公平な資源配分」なのです。この判断基準を経営トップが明確に示すことが、職員のエンゲージメント(貢献意欲)を高め、組織の安定を導きます。

6. 「心理的安全性」の確立こそが、最強の採用・定着戦略

深刻な人材不足に直面している医療界において、スタッフが職場に求める価値は「処遇」から「安全性と誇り」へとシフトしています。

「この病院は、自分たちが困った時に組織として必ず守ってくれる」

この確信こそが、職員の定着率を高め、ひいては優秀な人材を惹きつける最強のブランディングとなります。

職場環境の安全を確保することは、単なる守りの対策ではありません。組織の「知的財産」を蓄積し、医療機関としての価値を高めるための「攻めのガバナンス」です。10月の法改正を、新たな規制と捉えるのではなく、組織をより強固でしなやかなものへとアップデートする契機として捉えていただければ幸いです。

7. おわりに:組織の知恵を結集するために

「意識改革」とは、これまでの慣習を否定することではありません。時代に合わせて、患者と医療従事者の関係を「互いに尊重し合うプロフェッショナルな関係」として再構築することです。

実際の制度設計や法的判断、あるいは診療中止等の難しい判断においては、内部だけで抱え込まず、外部の専門的な視点を柔軟に取り入れていくことが、結果として迅速かつ円滑な解決に繋がります。

執筆・相談窓口:事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)

  • 経歴・実績
    • 刑事生活37年の実戦経験: 福岡県警察にて長年、強行犯捜査や危機管理の最前線に立ち、戸畑警察署長などを歴任。
    • 高度な危機管理知見: 財務省や国税庁への出向経験を活かし、法的・組織的なマクロ視点からのリスクマネジメントを確立。
    • 医療現場の守護者: 現在は、福岡市医師会安全対策サポートアドバイザー、および看護専門学校の常勤講師として、実戦的なハラスメント対策・組織防衛システムの設計に従事。

組織のリスク管理や安全安心の確保に不安を感じておられるなら、どうぞ一人で抱え込まず、お気軽に「柴田 ガバナンス研究所」までご相談ください。長年の現場経験に基づいた「事実の分析力」と、状況を冷静に解きほぐす「設計士の視点」を持って、病院経営の実態に即した最適なハラスメント対策システムを構築し、皆様の「正義」とスタッフの心の健康を全力で守り抜く後ろ盾となります。

それでは、また次回のブログでお会いしましょう。福岡の、そして全国の医療現場に、幸あれ。シバケンでした。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次