【病院経営】「悪い報告がない」のは危険信号!ハラスメントを未然に防ぐ組織ガバナンスの構築法

執筆:事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)

目次

はじめに:組織を蝕む「沈黙」という名の病

皆さま、こんにちは。事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。

「うちの病院は現場から悪い報告が上がってこない。皆うまくやっていて、安心・安全な病院だ」

もし、院長先生や幹部の皆さまがそう胸を張っているとしたら、設計士の私から言わせれば、それは非常に危険な「思い込み」かもしれません。今日は、組織を静かに蝕む「沈黙の正体」と、真の安全を掴み取るための意識改革についてお話しします。

1.「報告がない」のは「安全」ではなく「遮断」のサインです

病院経営において、最も恐ろしいのは「現場のリアル」が見えなくなることです。

幹部の方々が「現場で片付けろ」という無言の圧力をかけたり、悪い報告を「トラブル」として遠ざけたりすると、現場は自然と情報を遮断します。「良い情報しか上げない」という歪んだ文化が生まれてしまうのです。

「報告がないから安全だ」というのは、単なる設計上のエラーです。実際には、現場で小さな揉め事やハラスメントが繰り返され、スタッフの心が疲弊しきっているのに、それが幹部の耳に届いていないだけ。これでは、抜本的な解決など望めるはずもありません。

2.ある「有能な担当者」の孤軍奮闘から見えるもの

ここで、私が見たある病院の事例をお話しします。

その病院には、ハラスメントなどのトラブルに対して非常に的確に対応できる、極めて有能な担当者がいました。個別の事案が発生しても、その担当者の優れた手腕によって、見事に事態を収め、平穏を取り戻すことができていたのです。

しかし、そこに大きな落とし穴がありました。

中間の管理職をはじめ、病院全体に「個別に対応できているのだから、これ以上トップに上げて煩わせてはいけない」という意識、つまり上に報告を上げない文化が根づいていたのです。結果として、現場の生々しいリスク情報はトップまで一切届いていませんでした。

一見すると問題が解決しているように見えますが、組織としてはどうでしょうか。 トップが事実を知らないため、全体での情報共有が全くなされず、同じようなハラスメントが異なる部署で何度も繰り返されていました。事前に少しでも情報共有ができていれば防げたはずの事態や、病院側のミスに対する迅速なリカバーの機会を、ことごとく逃してしまっていたのです。

どれほど個人の能力が優秀であっても、「担当者に投げさえすればいい」という組織の姿勢では、本当の解決には至りません。

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3.現場の皆さまへ:その「揉め事」こそが貴重なデータです

現場で働く皆さまは、「日常の些細な揉め事で上を煩わせてはいけない」「自分で解決できないのは能力不足だ」と考えてはいないでしょうか。

はっきり申し上げます。その意識は今日から捨ててください。

皆さまが直面している「理不尽な言動」や「小さなトラブル」は、病院全体を守るための「極めて重要なリスク情報」です。それを上に上げないことは、病院という建物の「ガラスのひび割れ」を放置するのと同じです。初期段階で報告し、組織として共有すること。それは「弱音」ではなく、組織の安全を守るための「立派な義務」なのです。

4.幹部の皆さまへ:「悪い情報」こそが最高の経営資源です

院長先生、幹部の皆さま。ここで意識のコペルニクス的転回が必要です。

現場からハラスメントの報告が上がってくることを、「管理が行き届いていない」と嘆かないでください。むしろ、「現場がリスクを正しく検知し、組織を信頼して報告してくれた」と喜ぶべきなのです。

「安心・安全」とは、トラブルがゼロの状態ではありません。トラブルが起きたときに、それが即座にトップまで共有され、組織として統一的・継続的に対応できる体制がある状態を指します。

情報がトップまで迅速に上がり、組織として対応できるようになれば、ハラスメントの発生期待値はゼロに近づいていきます。現場からの「悪い知らせ」を歓迎し、「よく報告してくれた。組織として全力で守る」と応える。この姿勢こそが、職員に大きな安心感を与え、職場環境を劇的に改善し、結果としてハラスメントが繰り返されない強い組織を創り上げます。

5.「組織が一丸となって対応する姿勢」を全員で証明しましょう

私が提唱する「やるべきことをやる」という指針は、病院全体が法律(軽犯罪法や刑法)によって「守られる資格」を得るための重要な要件です。

現場の接遇が適切であり、かつ組織として「これ以上の理不尽な妨害は許さない」という統一した意思決定がなされている。この「一体感」があって初めて、法律は皆さまを理不尽から守る最強の盾となります。幹部が現場の状況を把握せず、適切な介入を行わない「付け焼き刃」の対応では、この法的な盾さえも機能しなくなってしまうのです。

6.課題を残さない「その場完結」へのロードマップ

ハラスメント気質の患者やクレーマーに対して、安易に対応を先送りしたり、解決できない宿題をそのまま現場に持ち帰らせたりしないこと。その場で毅然と「完結」させる勇気を持つこと。これを実現させるのは、現場の担当者個人の努力や我慢ではありません。

「どんな小さな事案でも組織が背後にいる」という安心感。 「報告を上げれば、設計士が引いたような明確な出口戦略を提示してもらえる」という確信。 このガバナンス体制(組織の統治体制)こそが、ハラスメントという「呪縛」を解き放つ唯一の鍵となります。

結びに:真の「安心・安全」を共に築くために

「良い情報しか上がらない組織」は脆いものです。現場が勇気を持ってリスクを伝え、幹部がそれを真摯に受け止めて対策を講じる。この「風通しの良さ」こそが、真の安全・安心な病院を創り上げます。

私自身、これまでに37年間にわたり法執行の現場に身を置き、警察署長として様々な危機の指揮を執ってまいりました。また、財務省から国税庁への出向経験など、官庁組織におけるガバナンスやリスク管理の最前線も歩んできました。現在は、それらの経験と知見を医療現場へと還元すべく、福岡市医師会の安全対策サポートアドバイザーや、看護専門学校での講師を務めながら、実践的な組織統治の仕組みづくりをお手伝いしています。

警察や行政、そして現在の医療安全の現場を通じて確信しているのは、組織が一体となったときの強さです。担当者一人に重責を背負わせる必要はありません。組織全体で「不落の城」を築き、職員全員が安心して笑顔で働ける環境を、共に創り上げていきましょう。

病院全体の風通しや、ハラスメント対策のガバナンス体制構築について、少しでも気になることや現在の体制への不安がございましたら、いつでもお気軽にご相談ください。課題分析から具体的な出口戦略の設計まで、いつでも力になります。

ワンダフルな改革の始まりです。

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