【医療安全×防犯】日本医師会も警告する「防犯の空白地帯」を解消する!元警察署長が明かす“実戦的”警察連携の設計図

目次

■ はじめに:日本医師会も警告した「防犯の空白地帯」

皆さま、こんにちは。事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。

初夏の爽やかな風が福岡の街を心地よく駆け抜ける季節となりました。病院経営のトップやリスクマネジメント担当の皆さまにおかれましては、日々の過酷な業務に加え、現場の安全管理という重責に対峙され、多大なるご尽力をされていることと心より敬意を表します。

さて、今回は医療界全体が長年目を背けてきた、しかし今や一刻の猶予も許されない「警察との真の関係構築」という極めて重要なテーマについて、実務的な観点から深く掘り下げていきます。

実は、日本医師会においても、今まさに解決すべき課題として「警察との連携強化・関係構築」が明確にクローズアップされています。具体的には、2022年(令和4年)に会内で設置された「医療従事者の安全を確保するための対策検討委員会」の取りまとめ、およびそれに基づく都道府県医師会との協議において、「医療従事者に現実に危険が差し迫った状況下では、警察による緊急の対応が必須である」として、警察との緊密な関係構築が強く呼びかけられました。

振り返れば、全国各地で医療従事者が理不尽な暴力や事件に巻き込まれる悲惨な事案が後を絶ちません。それにもかかわらず、多くの医療機関が「目の前の医療と患者のケアに専念するあまり、警察との日常的な関係を重視してこなかった」という、手痛い反省の弁を述べているのが現実です。

「連携を強化しろ」「関係を構築しろ」――。 各種の委員会や教科書には、いつも通りの綺麗な言葉が並びます。しかし、現場の皆さまが必要としているのは、そんな抽象的なスローガンではなく、「いざという時に自分たちの身を守る、機能的な防衛策」のはずです。

警察と医療機関。この二つの組織が真に手を取り合うために必要なのは、形式的な協定書の締結ではありません。お互いの「意識の変革」と「日常のわずかなコミュニケーション」です。

私は、この「警察」と「医療」の両方の内情を深く知る立場として、現場で明日から使える“実戦的な警察連携の設計図”を提示します。これをご理解いただくことで、有事における皆さまの組織のリスクマネジメント能力は劇的に向上します。

1.医療現場の現実:情報倫理の重圧と「個人情報」の壁

まずは医療機関側の視点から、現場の実態を整理してみましょう。

現在の医療現場は、慢性的な人員不足という極限の環境に晒されています。現場のスタッフは日々の過酷なシフトと目の前の患者さんの命に向き合うことで、心身ともに疲弊しきっています。 それに加え、看護師をはじめとする医療従事者は、学生時代から「情報倫理」や「守秘義務」について徹底的な教育を受けています。「患者さんの情報を守り抜くこと」は、医療者としてのアイデンティティそのものであり、彼らの持つ高潔な倫理観の表れなのです。

そんな余裕のない、かつ強い責任感を抱えた現場に、突然かかってくる一本の電話があります。

「もしもし、〇〇警察署ですが、本日そちらを受診された〇〇さんについてお尋ねします」

変死事件や行方不明事案、あるいは連れ去りといった重大事件が発生した際、警察は何らかの手がかりを求めて医療機関に緊急の電話問い合わせを行うことが多々あります。

これに対する医療現場の現実的な状況はどうでしょうか。問い合わせに専従してカルテを詳細に調べ、その提供の可否を現場のスタッフが単独で判断するような時間的・精神的余裕は、今の病院にはほとんどありません。そのため、患者を守ろうとする防衛本能から、「個人情報保護法に基づき、一切お答えできません」と、一律に突っぱねてしまう対応が後を絶ちません。

多忙を極める現場の防衛本能として、また「患者の秘密を守る」という正義感からの判断として、シャットアウトしたくなる姿勢は痛いほど理解できます。

しかし、組織のリスクマネジメントという大局的な観点から見れば、これは「将来の自院の安全を脅かしかねない危うい対応」と言わざるを得ません。

なぜなら、信頼関係とは常に双方向だからです。自分たちがペイシェントハラスメント(ペイハラ)や院内暴力で困った時だけ警察に即座の対応を求め、警察が緊急の捜査で協力を求めている時には「個人情報」を理由に一蹴してしまう……。これでは、どれだけ綺麗な言葉を並べても、真のコミュニケーションは成立しません。

お互いの日常業務へのリスペクトがなければ、有事における強固な信頼関係は絶対に築けないのです。

👉 あわせて読みたい(おすすめ動画) 【実録】「家族への連絡」が違法に?個人情報漏洩の罠と、医療現場を救う「理論武装」の設計図 (https://shibaken-poli.com/wp-admin/post.php?post=422&action=edit

2.警察現場の課題と、法が定める「例外規定」の正しい解釈

一方で、警察側の対応にも改善すべき点、猛省すべき点が多々あります。

元警察署長としてあえて苦言を呈しますが、警察官は捜査の切迫感や焦りから、医療機関へのアプローチにおいて言葉足らずになりがちです。「警察の照会なのだから答えて当然だろう」という、現場への配慮を欠いた横柄に見える態度は、ただでさえ重圧を抱える医療現場の不信感を招く最大の原因となります。

医療機関には個人情報保護法による厳格な縛りがあり、原則として本人の同意なく情報を第三者に提供することはできません。しかし同時に、法律は「社会の安全を守るための例外」もきちんと用意しています。

警察が協力を求める際、確実に医療機関がそれに応じる際、個人情報保護法 第27条第1項に定められた例外規定を正しく理解し、使い分ける必要があります。私は医師会看護専門学校で個人情報保護法や情報倫理の講師を務めておりますが、この「例外規定の解釈」こそが、実務において最も誤解が生じやすく、かつ強力な武器になるポイントです。

個人情報保護法 第27条第1項における例外規定の整合性

  • 第1号:法令に基づく場合 完全な連れ去り事件や変死事案など、すでに明確な刑事事件として動いている「捜査」の段階がこれに該当します。刑事訴訟法に基づく「捜査関係事項照会」など、法的な権限に基づく正式な文書要請がベースとなります。
  • 第2号:人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合(本人の同意を得ることが困難であるとき) 事件かどうかが確定していなくとも、現に誘拐の疑いがある場合や、一刻を争う認知症高齢者の行方不明事案など、対象者の生命や身体に差し迫った危険がある状況において適用されます。一分一秒を争う医療の現場とも最も親和性が高い条文です。
  • 第4号:公務の遂行に協力する必要がある場合(本人の同意を得ることにより当該事務の遂行に支障を及ぼすおそれがあるとき) 「まだ事件かどうかわからない段階」における、警察からの事実上の照会や事前調査の多くがこれに該当します。本人に「警察から問い合わせが来ていますが、開示してよいですか」と確認を取ることで、かえって証拠隠滅や逃亡の恐れが生じるなど、警察の公務遂行に致命的な支障を及ぼす場合です。

実務上、特に重要となるのがこの「第4号」の解釈です。 重大な事件を未然に防ぐため、あるいは初動捜査で事態の本質を把握するため、警察から「事実上の公務協力」を求められるケースは今後さらに増加します。この際、現場が「本人の同意がないから」と杓子定規に拒絶してしまうと、結果として社会的な重大リスクを見過ごすことになりかねません。

だからこそ、警察側も単に「警察だから教えてほしい」と言葉足らずに要求するのではなく、「なぜこの情報が今必要なのか」「いかに緊急性と必要性があるのか」を、医療機関に対して真摯に説明する責任があります。この双方の認識の不一致を解消し、法の正しい解釈を共通の物サーチとして共有することこそが、医療安全における真の連携への第一歩となるのです。

3.日常の協力が、有事の「110番の盾」を最強にする理由

医療機関にとって、理不尽なハラスメントや診療妨害、あるいはスタッフが身の危険や恐怖を感じる悪質な事案に直面したとき、最後の砦となるのは間違いなく「110番通報」です。

しかし、日頃から警察との間に心理的な壁を作っていると、現場のスタッフに「これくらいのことで通報していいのだろうか」「怒られたらどうしよう」という不必要なハードルが生まれ、結果として通報の遅れを招き、事態を悪化させるリスクを生じさせます。日常的な信頼関係があれば、「何かあればすぐに警察を頼っていいのだ」という強力な安心感が現場に生まれ、初動のスピードが変わります。

さらに、警察の実務における極めて重要な「現場の事実」をお伝えします。

110番通報を受けて警察官が現場に駆けつけた後の処理には、治安維持の観点から「非常に幅広い裁量権」が認められています。目の前で起きているトラブルに対し、口頭の注意で収めるのか、厳格な警告を発するのか、あるいは威力業務妨害罪等を視野に入れて断固とした事件化へ踏み切るのか――法の適用と執行のアプローチは、臨場した警察官の判断に委ねられている部分が非常に大きいのです。

警察官も一人の人間です。 この時、現場に駆けつけた警察官が被害者である医療機関の立場に100%共感し、「この病院を全力で守る」と最も適切かつ毅然とした解決策(法の執行)を強力に後押しするための最大の裏付けとなるもの。それこそが、日常の警察業務に対する医療機関側の理解と協力なのです。

「いつも捜査に協力してくれる、あの頼もしい病院が困っている。今度は我々が全力で守る番だ」 この日頃の相互理解の蓄積が、いざという時の警察の対応の「質」と「スピード」を決定づける最大の要因となります。

4.今日から実践すべき「短時間コミュニケーション」の設計

とはいえ、過酷な業務に追われる医療機関が、警察との交流のために多くの時間を割くことは不可能です。そこで、日々の業務の中で、1分で実践できる具体的なアプローチを提示します。

① 電話対応における「言葉のパラダイムシフト」

警察から照会電話があった際、無条件に拒絶するのではなく、以下のように実務的、かつリスペクトを込めた対応へ切り替えます。

「いつも地域の治安維持をありがとうございます。現在、窓口が非常に混み合っておりまして、恐れ入ります。今回のご用件は、人の生命に関わるような緊急の事案(第2号)、あるいは**公務遂行上の緊急の要請(第4号)**でしょうか。緊急性が高いものであれば、今すぐ責任者に繋ぎます。もしそうでなければ、大変恐縮ですが、〇時以降に改めてご連絡をいただけますでしょうか」

相手の実務への敬意を示しつつ、こちらの状況と「法の例外規定の視点」をスマートに提示する。これだけで警察官側の受け止め方は劇的に変わり、ただの「お役所仕事の電話」から「プロ同士の対話」へと昇華されます。

② 日常的な「顔の見える関係」の小まめな蓄積

地元の警察署の生活安全課や刑事課など、関わりのある部署の担当者と、機会があるごとに短時間でも挨拶を交わしておく。この「ちょっとした顔の見える関係」の蓄積が、有事の際の心理的ハードルを劇的に下げ、病院全体の強固なガバナンス体制を構築することに繋がります。

■ 結びに:お互いの専門性をリスペクトし、安全な医療環境を創る

医療機関は「地域の命と健康を守る」という、崇高かつ極めて重要な責任を負ったプロフェッショナルです。一方で警察は、「地域の治安と安心を守る」という、一歩も引けない使命を負ったプロフェッショナルです。アプローチは違えど、「地域住民の安全で平穏な暮らしを守る」という究極の目的は完全に一致しています。

この二つの組織が、それぞれの専門性をリスペクトし、日常から少しずつの意識改革とコミュニケーションを積み重ねていくこと。これこそが、医療現場の孤立を防ぎ、職員の皆さま全員が安心して、笑顔で働ける環境を創り上げる最強の設計図となります。

私はこれまで、福岡県警の刑事・警察署長として現場のリスクマネジメントに対峙し、また財務省や国税庁への出向経験を通じて厳格な法令研鑽を重ねてまいりました。現在は、福岡市医師会の安全対策サポートアドバイザーや看護専門学校の講師として、医療現場の安全な環境づくりを後方から全力で支援しております。

日々の業務において、あるいは警察との連携や院内の防犯体制の構築において、少しでも判断に迷うことや現場での課題がございましたら、決して一人で抱え込まずに、どうぞお気軽にシバケンまでご相談ください。

皆さまの組織の背中を全力で支え、最高に安全で、最高に安心な現場を共に創り上げていくために、いつでも力を尽くします。

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