【医療安全の新常識】接遇とカスハラ対策を両立させる「ゴムマリ理論」とは?元警察署長が教える臨界点の見極め方

皆さま、こんにちは。事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。

2026年5月も終わりに近づき、爽やかな新緑の季節から、少しずつ梅雨の気配をはらんだ柔らかな雨が心落ち着かせる季節へと移り変わろうとしています。衣服を季節に合わせて衣替えするように、医療現場の防衛策もまた、時代の変化に合わせてアップデートしていく必要があります。

人生の第4クォーターを歩む63歳の私ですが、今日も地域の医療安全を支える「司令塔」として、現場の皆さまと共に知略を巡らせております。

本日は、医療従事者の皆さまの頭を悩ませる「接遇マナー」と「ペイシェントハラスメント(患者ハラスメント)対策」の整合性について、私が提唱する「ゴムマリ理論」という視点から、具体的な設計図を提示します。

目次

「ひたすら納得させる」教育が歩んできた道のりと限界

これまで医療業界では、患者の怒りや不安を収めるための接遇研修が、非常に熱心に行われてきました。それは、いかなる状況でも「納得させること」をゴールとし、既存の常識として定着しています。

こうした教育が主流となった背景には、かつて刑事罰すら存在した応召義務(診療を事実上断れない法的縛り)や、金銭の有無、時間外であっても拒否できないという厳しい現状がありました。さらに「患者様」という呼称に象徴される過度な権利意識の高まりが、この「ひたすら耐え、納得させる」という文化を医療の常識に押し上げたのです。

しかし今、時代は「カスタマーハラスメント(ペイシェントハラスメント)対策」という新たなフェーズへと完全に舵を切っています。

接遇の伸縮性と境界線――「ゴムマリ理論」の真髄

一部では「これまでの接遇教育とカスハラ対策は相反するのではないか」という声も聞かれます。しかし、設計士の目から見れば、これらは決して対立するものではありません。

ここで重要になるのが「ゴムマリ理論」です。

応対・接遇というのは医療の基本であり、相手の状況や事柄の重さに応じて、どこまで丁寧に行うべきかは、まさにゴムマリのように柔軟に膨んだりしぼんだりするべきものです。

医療の基本、その根本にあるのは「患者に寄り添う」という姿勢に他なりません。病気や怪我を抱え、強い不安のなかにいる患者の心に寄り添い、プロフェッショナルとして適切な接遇・説明を尽くすこと。これは、患者側の不満や誤解を未然に防ぎ、ペイシェントハラスメントを限りなくゼロに近づけていくための、いわば「最大のハラスメント対策」そのものなのです。医療者として、この本質は頭の主軸に置いておかなければなりません。

まずはこの原点としてのゴムマリを適切に機能させ、やるべき応対をしっかり尽くすことがすべての大前提となります。

しかし、このゴムマリの「初期の大きさ」は、相手の態度によって全く異なります。

① 手段が逸脱している場合は「凹んだ最小のゴムマリ」で即対応

もし、最初から相手の手段が社会通念上逸脱している(大声を出す、威嚇する、机を叩くなど)場合、あるいは一般的な応対の境界線を超えて理不尽な言動を継続する場合は、ゴムマリを大きく膨らませて丁寧に接遇する(やるべきことを増やす)必要は一切ありません。

このようなケースでは、最初から「ギュッと凹んだ最小のゴムマリ」のままで、あるいは丁寧な接遇はスキップして、即座に「ペイシェントハラスメント対策」へ入るべきです。

その際は、感情的にならず、静かに、しかし毅然としたトーンで次のような初期フレーズを発動させ、防衛モードに切り替えます。

「静かにしてください。大きな声を出されると、こちらも怖いです」 「そのような暴言や威嚇を続けられるのであれば、本日の診察はお断りします。お引き取りください」

このように、相手の異常な手段に対しては、無駄に応対を膨ませず、最小限の凹んだ状態でノーを突きつけることが、組織を守る第一歩となります。

② 病院側にミスがあった場合でも、ハラスメントを我慢する必要はない

ここで多くの方が悩むのが、「病院側にミスや不備があった場合、こちらに非があるのだから、相手からの理不尽なハラスメント行為も我慢しなければいけないのだろうか」という疑問です。

決してそんなことはありません。ここでもゴムマリ理論の「2つのベクトルを同時に走らせる」という考え方が活きてきます。

万が一、病院側にミスがあった場合、病院としてやるべきことは、速やかに客観的な「手続き」のレールに正しく乗せることです。これには、院内での事実関係の調査はもちろんのこと、必要に応じて医師会や第三者機関による厳正な調査の実施、さらには弁護士を通じた法的な和解交渉や裁判手続きといったステップがすべて含まれます。たとえ長期的な紛争事案に発展したとしても、このミスに対する真摯かつ厳格な手続きのベクトルは、一貫して継続させます。

しかし、それはそれ、こちらはこれです。 病院側がこうした公的な手続きに乗せて誠実に対応を進めているにもかかわらず、相手がそのミスを盾にして、病院の窓口や診察室で職場環境を乱すような暴言を吐いたり、居座ったり、過度な要求を突きつけてくるのであれば、それは完全にハラスメント(違法行為)です。

  • ベクトルA: ミスに対する第三者機関等の調査や、弁護士を通じた裁判・和解手続きの進行(一貫して継続)
  • ベクトルB: 職場環境を乱すハラスメント行為に対する、毅然とした拒絶(同時に発動)

病院側に不手際があったとしても、理不尽な暴言や威嚇を無条件に受け入れていい理由にはなりません。正当な手続きは進めつつ、ハラスメントには一切屈しない。この2つのベクトルを同時に走らせて対処することこそ功を奏する、現代のガバナンスにおけるゴムマリ理論の核心なのです。

👉 あわせて読みたい過去記事 【医療現場のカスハラ対策】「丁寧な接遇」こそが最大の防御。現場の優しさと安全を守るための新常識 (https://shibaken-poli.com/wp-admin/post.php?post=459&action=edit

法律を味方につけるための「法的要保護性」という概念

なぜ、まず通常の事案ではゴムマリを機能させることが必要なのか。ここが最も重要なポイントです。 理不尽な相手に対して軽犯罪法の業務妨害や不退去罪を問い、警察と円滑に連携するためには、医療機関側に「法的要保護性(ほうてきようほごせい)」が備わっていなければなりません。

法律は、自らの義務(適切な接遇や説明、ミスへの誠実な対応手続き)を放棄している側を無条件に守ってはくれません。「やるべきことを適切にやっている」という事実の積み重ねこそが、法律による保護を受けるための強力な盾となるのです。

「患者に寄り添う」という医療の根本たる接遇マナーの履行、それからミスが起きた際の客観的な手続きへの移行は、相手の違法性を際立たせ、自分たちの正当性を担保するための「防衛インフラ」に他なりません。だからこそ、相手が最初から一線を越えている場合は、こちらは最小限の手続きを踏むだけで、堂々と「NO」と言える法的権利が生まれます。

「危機察知力」という唯一の羅針盤

接遇からカスハラ対策へ、どのタイミングで移行するか。そのゴムマリの限界値(あるいは最初から凹ませて対応すべきか)を見極める鍵こそが、現場の「危機察知力」です。

2026年5月の現在、医療現場に最も求められているのは、目の前の事案が通常の接遇(ゴムマリの伸縮)で解決できる「感情の発露」なのか、それとも組織的に遮断すべき「悪意あるハラスメント」なのかを見分ける目利きです。「この人物は一線を越えるかもしれない」という危機察知力を機能させることが、現代の医療者に求められる新たな必須スキルと言えます。

かつて私が直面した、窓口で居座り続けるような事案においても、まずは一通りの説明を尽くし、それでも不毛な主張と威嚇を繰り返すという「臨界点」を危機察知力で見極めたからこそ、迅速かつ確実な法的手続きへと移行することができました。

結びに:ワンダフル!な安全環境は「正しい理解」から

接遇マナーを捨てる必要はありません。むしろ、それを「防衛の盾(ゴムマリ)」として機能させることです。しかし、その許容量を超えようとする悪意や、最初から手段が逸脱している攻撃に対しては、ゴムマリを最小限に留め、即座に組織的なハラスメント対策という「矛」を構える。この「両立と移行」のガバナンスこそが、これからの医療現場を支える正解です。

「安心(あんしん)」な現場を、皆さまと共に「安進(あんしん)」……安らかに一歩ずつ未来へ進んでいけるように。

事実を積み重ね、理論で武装し、そして誰よりも温かい眼差しを持って、共に歩んでいきましょう。私はこれからも、皆さまの背後を守る司令塔として全力でサポートさせていただきます。

今回のテーマである接遇の限界線や、組織的なハラスメント対策、あるいは院内のミスに伴う具体的な紛争対応などでお困りの際は、一人で抱え込まずに、ご相談はいつでもシバケンに。

私は、37年間にわたる警察官人生の中で、現場の修羅場や数々のトラブル解決の実戦を潜り抜けてきました。さらに財務省や国税庁への出向経験を通じて、単なる力業ではない「法の厳格な手続きと客観的なガバナンス設計」の重要性を深く叩き込まれています。

一般的なマナー論や綺麗事のハラスメント対策だけでは、実際の医療現場は守れません。この「実戦経験」と「法的プロセス」の双方を掛け合わせ、個々の医療機関に最適な防衛インフラを具体的に設計できることこそが、私の強みであり、他にはない役割であると自負しております。

現在は地域の医療安全を支えるアドバイザーとして、皆さまが直面する課題に同じ目線で寄り添い、解決への道を共に歩みます。具体的なケースで少しでも不安や疑問を感じたときは、いつでもお気軽にご相談ください。事実と理論に基づいた強力な後ろ盾として、全力でサポートいたします。

事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)

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