執筆:事案分析と解決の設計士 柴田 建一(シバケン)
■ はじめに:組織を蝕む「沈黙」という名の病
皆さま、こんにちは。事案分析と解決の設計士、シバケンこと柴田建一です。
「うちの病院は現場から悪い報告が上がってこない。皆うまくやっていて、安心・安全な病院だ」
もし、院長先生や幹部の皆さまがそう胸を張っているとしたら、設計士の私から言わせれば、それは非常に危険な「思い込み」かもしれません。今日は、組織を静かに蝕む「沈黙の正体」と、真の安全を掴み取るための意識改革についてお話しします。これは、クリニックから多数の相談を受ける中で、実際に私が経験してきたことでもあります。
1.「報告がない」のは「安全」ではなく「遮断」のサインです
病院経営において、最も恐ろしいのは「現場のリアル」が見えなくなることです。
幹部の方々が「現場で片付けろ」という無言の圧力をかけたり、悪い報告を「トラブル」として遠ざけたりすると、現場は自然と情報を遮断します。「良い情報しか上げない」という歪んだ文化が生まれてしまうのです。
「報告がないから安全だ」というのは、単なる設計上のエラーです。実際には、現場で小さな揉め事やハラスメントが繰り返され、スタッフの心が疲弊しきっているのに、それが幹部の耳に届いていないだけ。これでは、抜本的な解決など望めるはずもありません。もちろん、真に安全安心の環境により何も報告が上がらないということは当然ありますが、それは意識したことがないにしても、ペイシェントハラスメント対策と言える対応を組織として行っている場合が多いように感じます。
2.現場の皆さまへ:その「揉め事」こそが貴重なデータです
現場で働く皆さまは、「日常の些細な揉め事で上を煩わせてはいけない」「自分で解決できないのは能力不足だ」と考えてはいないでしょうか。
はっきり申し上げます。その意識は今日から捨ててください。
皆さまが直面している「理不尽な言動」や「小さなトラブル」は、病院全体を守るための「極めて重要なリスク情報」です。それを上に上げないことは、病院という建物の「ガラスのひび割れ」を放置するのと同じです。初期段階で報告し、組織として共有すること。それは「弱音」ではなく、組織の安全を守るための「立派な義務」なのです。
👉 あわせて読みたい参考記事 現場の安全意識を研ぎ澄まし、今回お話しした小さなトラブルやハラスメントの兆候を早め早めに検知して適切な初期対応につなげるための根本理念。元警察署長の視点からトラブルを未然に防ぐ思考法を構築した、こちらの過去記事をぜひ続けてお読みください。【医療安全対策】元警察署長が紐解く「危機察知力」:ペイシェント・ハラスメントから現場を守る思考の設計図 (https://shibaken-poli.com/2026/05/27/%e3%80%90%e5%8c%bb%e7%99%82%e5%ae%89%e5%85%a8%e5%af%be%e7%ad%96%e3%80%91%e5%85%83%e8%ad%a6%e5%af%9f%e7%bd%b2%e9%95%b7%e3%81%8c%e7%b4%90%e8%a7%a3%e3%81%8f%e3%80%8c%e5%8d%b1%e6%a9%9f%e5%af%9f%e7%9f%a5/)
3.幹部の皆さまへ:「悪い情報」こそが最高の経営資源です
院長先生、幹部の皆さま。ここで意識のコペルニクス的転回が必要です。
現場からハラスメントの報告が上がってくることを、「管理が行き届いていない」と嘆かないでください。むしろ、「現場がリスクを正しく検知し、組織を信頼して報告してくれた」と喜ぶべきなのです。
「安心・安全」とは、トラブルがゼロの状態ではありません。トラブルが起きたときに、それが即座に共有され、組織として統一的・継続的に対応できる体制がある状態を指します。
現場からの「悪い知らせ」を歓迎し、「よく報告してくれた。組織として全力で守る」と応える。この姿勢こそが、職員に「毅然とした対応」を取る勇気を与え、結果としてハラスメントが繰り返されない強い組織を創り上げます。
4.「業務の要保護性」を全員で証明しましょう
私が提唱する「やるべきことをやる」という指針は、病院全体が法律(軽犯罪法や刑法)の保護を受けるための要件です。
現場の接遇が適切であり、かつ組織として「これ以上の妨害は許さない」という統一した意思決定がなされている。この「一体感」があって初めて、法律は皆さまの最強の盾となります。日常の業務も法的しっかりと保護されています。「そんなもの犯罪には関係ない」という声も聞こえてきますが、仮に手段が軽微であっても、みさなんの業務は、「軽犯罪法の業務妨害」と刑罰法令でも守られているのです。幹部が現場の状況を把握せず、適切な介入を行わない「付け焼き刃」の対応では、この法的な盾さえも機能しなくなってしまうのです。
5.宿題を残さない「完結」へのロードマップ
ハラスメント患者に対して、安易な先送りや宿題の持ち帰りをしないこと。その場で「完結」させる勇気を持つこと。これを実現させるのは、現場の担当者個人の努力ではありません。
- 「どんな小さな事案でも組織が背後にいる」という安心感。
- 「報告を上げれば、組織として検討・対応を行ってくれる」という確信。
このガバナンス体制こそが、ハラスメントという「呪縛」を解き放つ唯一の鍵となります。
結びに:真の「安心・安全」は、透明性から生まれます
「良い情報しか上がらない組織」は脆(もろ)いものです。現場が勇気を持ってリスクを伝え、幹部がそれを真摯に受け止めて対策を講じる。この「風通しの良さ」こそが、真の安全・安心な病院を創り上げます。
一人で抱え込む必要はありません。組織一体となって「不落の城」を築き、職員全員が笑顔で働ける環境を、共に創り上げていきましょう。
ワンダフル!(シバケンだけに) な改革の始まりです。
【事案分析と解決の設計士:柴田 建一(シバケン)】 37年の法執行現場経験(元警察署長)と、現在の医療安全支援の知見を融合。現在は福岡市医師会安全対策サポートアドバイザー、福岡市医師会看護専門学校講師等として、実戦的な組織統治・危機管理の普及に努めています。
👉 公的エビデンス:厚生労働省の公式指針はこちら 組織として講ずべきハラスメント対策の公的な基準については、厚生労働省発出の以下の指針をご確認ください。 【厚生労働省】労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」 (https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf)
