【偽りの正義】福岡県議会の不祥事から考える、現場を置き去りにしたカスハラ対策の矛盾

読者の皆様、日々のお仕事、そして現場でのご対応、本当にお疲れ様です。近年、顧客からの理不尽な要求や暴言、いわゆる「カスハラ(カスタマーハラスメント)」が深刻な社会問題となっています。私が日頃から支援に入らせていただいている医療機関においても、患者やその家族からのハラスメント(医療に業界にお、いてはカスタマーハラスメントを特にペ「イシェントハラスメント」⦅ペイハラ⦆と言っています。)は、現場の医療従事者を深く傷つけ、離職へと追い込む重大な脅威です。本ブログでは、私が強く提唱してきた厳格なカスハラ防止条例の必要性と、それを制定すべき立場にある福岡県議会や行政が抱える深刻な矛盾について、事実を交えながら深く掘り下げます。このブログを読むことで、組織のトップが持つべき「真のガバナンス」とは何か、最前線で働く皆様を守るために今、行政や議会に何が求められているのか、その本質的な課題と解決策が見えてくるはずです。

目次

私が思い描く「最も厳しいカスハラ対策条例」の姿

これまで私は、他県での先進的な取り組みを紹介しながら、福岡県・福岡市こそが全国で最も優先的にカスタマーハラスメント対策条例に着手すべき自治体であるという、データに基づく主張を重ねてきました。

福岡県内企業への実地アンケートでは、実に6社に1社が被害を経験しており、個人客対応の多い業種はその1.5倍のリスクを負っています。さらに福岡市は、全国平均を大きく上回る密度で宿泊業や飲食サービス業が集積している都市です。これらは推測ではなく、一次データが示す事実です。また、医療機関においても、労働施策総合推進法(いわゆるパワハラ防止法)の文脈の中で、事業主には労働者をカスハラから守る「安全配慮義務」が強く求められるようになっています。医療現場におけるカスハラ、すなわち「ペイハラ」から看護師や医師を守り抜くことは、地域医療を崩壊させないための絶対条件なのです。

だからこそ私は、福岡で条例を作るのであれば、中途半端な理念だけの条例ではなく、実効性を伴う全国で最も厳しい部類のモデルが必要だと考えています。具体的には、三重県が来年4月の施行を目指す条例案のように、悪質なカスハラが止まない場合は事業者から知事へ申し出を行い、専門の審査会の意見を聴いたうえで禁止命令を発令し、違反者には50万円以下の罰金などを科す仕組み。そして、すでに施行されている桑名市のように、改善が見られない悪質なケースについては氏名を原則1年間公表するという、行政処分としての重みを持たせた仕組みです。

経済的な抑止力としての「罰則」と、社会的制裁としての「氏名公表」。福岡市の産業構造を踏まえれば、この両輪が揃って初めて、現場で理不尽な要求に晒され続けている働く人たちを本当の意味で守ることができると確信しています。

理想と逆行する、福岡県議会の深刻な混乱

しかし、市民や県民を守るための理想を語る前に、私はどうしても向き合わなければならない現実に突き当たりました。それは、今まさにそのカスハラ対策条例を作るべき立場にある「福岡県議会」自身が、深刻な混乱と倫理的な欠如の渦中にあるという事実です。

2026年、福岡県議会では極めて深刻な金銭授受疑惑が浮上しました。報道によれば、2020年に議長を務めた県議が、自身の議長就任に際して他会派への根回しの名目で、当時の副議長を通じて計約2,840万円もの大金を支払ったと証言しています。公開された音声データには「荷物を預かります。大金やけんね、管理しとかんと」といった生々しいやり取りが記録され、専門機関による声紋鑑定でも「99.99%以上、副議長の声とみられる」という結果が出たと報じられています。当の元副議長は「声は似ているが記憶にない」と金銭授受を全面否定し、現議長も自身の議長選出馬に際しての金銭授受はなかったと全面的に否定していますが、疑惑は拡大を続け、議会は第三者委員会の設置に追い込まれる事態となりました。

これに追い打ちをかけるように表面化したのが、県議会による不透明な海外視察の問題です。県議会は2022年から2025年1月までの短期間に少なくとも7回ハワイを訪問しており、直近の視察では県議4人と同行職員で1人当たり約300万円、総額約1,190万円もの多額の費用が投じられました。副議長用の部屋として1泊13万3,300円の高級ホテルを手配したことや、随意契約で取得した2社の見積もりが不自然に一致していたことも指摘されています。全国の都道府県議会へのアンケートでも、福岡県議会の海外視察の支出額・回数がいずれも全国最多であったことが明らかになっています。

議長選をめぐる多額の金銭授受疑惑と、全国最多の海外視察支出。県民の血税を預かり、県民の生活を守るためのルールを作るべき議会が、このような足元の混乱を抱えている。これが今の福岡県議会の偽らざる姿なのです。

熊本県八代市の教訓に見る「持ちつ持たれつ」の末路

こうした議会を取り巻く不透明な構造は、決して福岡だけの特殊な事象ではありません。2026年5月、熊本県八代市では、市庁舎の建設工事をめぐって建設業者に便宜を図る見返りに現金6,000万円を受け取ったとして、現職市議らがあっせん収賄の疑いで逮捕されました(本人は容疑を否認しています)。事態を重く見た市議会は臨時議会を開き、逮捕・勾留中の議員報酬を即日停止する条例を全会一致で可決する事態にまで発展しました。

議員が自らの地位や影響力を利用して行政への働きかけを「あっせん」し、その見返りに利益を得る。これは、刑法が定めるあっせん収賄罪などの根底にある「権力の私物化」という構造そのものです。福岡県議会で報じられている金銭授受疑惑も、刑事事件として立件されているか否かの違いはあれど、根っこにある「密室での不透明なやり取り」という構図は同じではないかと、私には強い危機感として映ります。企業経営や病院運営における「忠実義務や善管注意義務(善良な管理者としての注意義務)」に照らし合わせても、このようなガバナンスの欠如は組織の根幹を揺るがす致命的な問題です。

皮肉な符合であり身内だけを守る不当要求防止条例

ここで、現在の福岡県行政が抱える非常に皮肉で、示唆的な事実をお伝えしなければなりません。実は福岡県自身が今、まさに「不当要求から職員を守る条例」の制定に向けて動いているのです。

福岡県が幹部職員233人を対象に実施した調査では、約半数にあたる119人の職員が「地位や影響力を利用した不当な要求や威圧的な言動」を経験または目撃したと回答しました。驚くべきことに、その不当要求の主の最も多いカテゴリーが「国会議員や県議会議員、市町村の議員」であり、実に103件を占めていたのです。「特定の業者を選定するよう求める」「予算に計上された契約額を事前に教えろと迫る」といった、公正な行政を歪めるような行為が多数報告されています。

これを受け、福岡県は職員に対する不当な要求があれば「氏名を公表する」という強い仕組みを柱とした条例案の提出を予定しています。知事も「不当な要求から職員を守る条例をきちんと制定していかなければいけない」と述べています。つまり、福岡県庁自身が「議員からの不当な圧力に苦しむ職員がこれだけいる」という悲痛なデータに直面し、氏名公表という厳しい手段を用いてでも「身内である職員」を守ろうとしているのです。

行政の職員を政治的圧力やカスハラから守るために強い条例が必要だという主張には、私も強く賛同します。しかし、それならばなぜ、最前線の店舗や病院、施設で理不尽なカスハラやペイハラに苦しんでいる「一般の事業者・従業員」を守るための条例が、同じ熱量で議論されないのでしょうか。この構造は、私がここまで論じてきたカスハラ対策条例の必要性と驚くほど一致しています。

飯塚市の先行事例に見る市民不在の違和感

さらに県内の状況を調べていくと、見過ごせない事実に行き当たりました。福岡県内の飯塚市では、2025年7月に「飯塚市不当要求行為等対策条例」が施行されています。この条例の説明資料には、はっきりと「カスタマーハラスメント」という言葉が明記されており、長時間の拘束、大声や脅迫、暴力的行為、SNSでの誹謗中傷など、まさにカスハラの典型例が第2条の対象として列挙されています。そして、この条例の第11条にも「氏名の公表」という強い制裁措置が盛り込まれているのです。

つまり、飯塚市はすでに「カスハラ」という言葉を公式に用いながら、氏名公表を含む本格的な対策条例を「自分たち市職員のためだけ」に作り上げていたことになります。福岡市交通局が平成31年から運用している、乗客からの理不尽な要求に氏名公表で対応する規程も、同じ文脈にあると言えるでしょう。県は議員から、市は市民や利用者から、それぞれ自らの職員を守るための制度を着々と整備しているのです。

私は元警察官として37年間、行政機関が市民や議会からの様々な圧力の中で業務を遂行する苦労を痛いほど理解しています。行政が自らの職員を守るための仕組みを整えること自体は、決して間違っていません。労働者を守る安全配慮義務の観点からも当然の措置です。

しかし、この構図で決定的に抜け落ちているものがあります。それは、圧倒的多数の福岡県民・市民が働く民間の現場です。行政の本来の目的は「市民を守ること」のはずです。自分たち職員を守る対策と、県民・市民を守る対策は、本来であれば同時並行で進められるべきものです。自分たちのための制度づくりだけが先行し、医療機関、宿泊業、飲食業、小売業などで働く人々を守る制度づくりが置き去りにされているとすれば、それは行政の優先順位が根本から間違っていると言わざるを得ません。

当たり前のことを条例で縛らねばならない深刻な現実

冷静に考えてみれば、「地位や影響力を利用して不当な要求をしない」「業者から利益を受け取って行政に便宜を図らない」というのは、公職にある者としてはあまりにも当然の職業倫理です。

報道によれば、福岡県議会では議員への過剰な「忖度」として、「議員が着席するまで職員は座らない」「議員が主催するパーティーに自腹で出席する」「視察の際は駅や空港まで出迎え・見送りをする」といった信じがたい慣例がまかり通っていたとされています。

福岡市議会でも同様の構図が報じられました。市の緊急アンケートでは、議会対応にあたった職員のうち147人が議員から長時間にわたる威圧的な言動を受けたと回答し、「下僕のように扱われた」「言いがかりをつけられ反省文の提出を求められた」といった証言が寄せられています。さらに、本来は議員自身が行うべき質問原稿の作成を職員が肩代わりする「質問の代筆」を61人が経験し、心身の不調を来した職員も26人にのぼったと報じられています。

特定の業者を指定しない。暴言を吐かない。相手が着席するまで自分は座らないといった過剰な上下関係を強要しない。自分の仕事は自分でやる。これらは、本来、公職にある者として、あるいは一人の社会人として、条例や規程を作るまでもない当たり前の振る舞いです。それをわざわざ「不当要求」「威圧的言動」として明文化し、氏名公表という制裁まで用意しなければ正すことができないという現実こそが、現在の福岡県・福岡市の議会が置かれている状況の異常性を何よりも雄弁に物語っています。

その「当たり前」を守れなかった行き着く先が、八代市のようなあっせん収賄事件へと繋がっていくのです。このような足元の倫理的崩壊を抱えたまま、福岡の行政は本当に県民・市民のための組織であり続けられるのでしょうか。現場で汗水流して働く人たちを守るためのカスハラ対策条例に本気で向き合う前に、議会はまず自分たち自身の「当たり前の倫理」を取り戻す必要があると、私は強く感じています。

👉議会や官公庁がごたごたに揺れ動いているその合間にも、最前線の医療業界では外国人患者によるカスハラや未払いといった新たな問題まで起こっています。こうした過酷な現場を守るための具体的な対応策については、ぜひこちらの記事もご覧ください。
『【医療現場の防衛術】外国人患者のカスハラと未払いトラブルを防ぐ実務対応の極意』
(https://shibaken-poli.com/?p=1725&preview=true)

真のカスハラ対策に必要なのは厳しい罰則より動く覚悟

三重県が検討しているような罰則や、桑名市が行っている氏名公表といった、制度としての「厳しさ」を福岡の民間向け条例にも導入することは、私は今でも強く望んでいます。医療現場におけるペイハラを含め、悪質な要求から現場を守るためには、強力な法的根拠と盾が必要です。

しかし、それ以前に最も重要なのは、条例を制定し運用する側である議会と行政トップが、本気で「現場を守り抜く」という覚悟を持ち、そのための一歩を踏み出すことです。制度がどれほど厳格に作られていても、それを作る議会自身が倫理観を失い、県民からの信頼を失墜させていては、どんな条例も説得力を持たない「絵に描いた餅」になってしまいます。真のガバナンスとは、まずトップ自らが襟を正し、その姿勢をもって現場の安全を守るために行動することから始まるのです。

まとめと結び

ここまで、いささか厳しい見方をお伝えすることになったかもしれません。しかし、私自身、37年間の警察官人生や警察署長としての組織管理、そして財務省・国税庁への出向を通じて、法や制度と、最前線の現場との間にある深い溝を数えきれないほど目の当たりにしてきました。だからこそ、制度を作る側の「覚悟」がどれほど重いものか、身をもって知っているのです。

今この瞬間も、店舗で、窓口で、そして病棟で、理不尽な要求や暴言に晒されながら、じっと耐えて業務を続けている福岡の事業者、従業員、医療従事者の皆さんがいます。彼らを守るための実効性ある条例を求める気持ちに、決して嘘はありません。同時に、そのルールを作るべき県議会が、まず自らの足元にある「当たり前」を取り戻し、真に県民のための議会として機能してくれることを、一県民として、そして危機管理の現場に生きてきた者として切に願っています。

私は、元警察署長としての危機管理経験や、財務省・国税庁への出向経験を経て、現在は看護学校の講師や福岡市医師会の安全対策支援アドバイザーを務めております。これまで、ご依頼に応じて市内の病院などで数多くの相談対応や、カスハラ・ペイハラ対策の研修・講話を行ってまいりました。もし、組織の安全管理や悪質なクレーム対応、ハラスメントへの仕組みづくりなどでお困りのことや、ご相談になりたいことがございましたら、どうぞ遠慮なく柴田建一(シバケン)までご連絡ください。経営層の方はもちろんのこと、現場で個別にお悩みを抱えられている担当者の方もいらっしゃるかと思いますが、決して一人で抱え込まず、安心してお気軽にお声がけください。現場の皆様に寄り添い、共に最善の解決策を見つけていくことが、私の何よりの使命です。

👉 公的エビデンス:厚生労働省の公式指針はこちら 組織として講ずべきハラスメント対策の公的な基準については、厚生労働省発出の以下の指針をご確認ください。 【厚生労働省】労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」 (https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf)

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