【応召義務の境界線】訴訟を起こした患者の診療は拒否できるの?元警察署長が教える医療現場の適切な対応

目次

はじめに:「訴える権利」を行使した患者に、診療を続けなければならないのか

生殖医療(不妊治療)などの現場で、残念ながら望む結果が得られなかった患者さんから、「医師の説明が誠意を欠く」「医療ミスがあったはずだ」として損害賠償を求める訴訟を起こされる。これは現代の医療現場であれば、規模の大小や地域を問わず、どこでも起こり得る切実な問題です。

このような事態に直面したとき、多くの医療従事者や事務長など担当者の皆様を深く悩ませるのが、「裁判を起こされてしまった後も、この患者さんの診療を今まで通り続けなければならないのか」という重い問いです。

相手はスタッフに大声で暴言を吐いたわけでも、待合室の器物を壊したわけでもありません。むしろ、憲法で保障された「裁判を受ける権利」という、国民として正当な権利を行使しているだけとも言えます。正当な権利行使をした患者さんに対して、病院側が一方的に診療を拒めば、それこそ報復や嫌がらせと受け取られ、マスコミ沙汰や新たな紛争の火種になるのではないか。多くの医療機関がここで足がすくみ、「とりあえず波風を立てず、今まで通り診療を続けるしかない」という結論に流れがちです。

しかし、実際にはこの論点について、すでに裁判所や国からの明確な判断基準が示されています。このブログを読むことで、単なる精神論ではない、法律や判例に基づいた「診療を継続すべきか否かの正しい判断基準」と、現場を守るための具体的な解決策がわかります。

今回のブログでは、私が現場の皆様に最もお伝えしたい「二つの大きな論点」を軸にお話しします。一つ目は「正当な権利行使(裁判など)の過程で生じた言動による信頼関係の破壊が、診療拒否の正当な理由になるか」という点。そして二つ目は、「厚生労働省の通知が示す『転院』のルールを、トラブル対応の実務にどう組み合わせるべきか」という点です。青森県内の大学病院を舞台にした実際の事件なども交えながら、この難しい問題を整理していきたいと思います。

応召義務と正当な権利行使に対する現場の深い迷い

医療現場における患者対応を考える際、常に念頭に置かなければならないのが「応召義務」の存在です。医師法19条1項に定められた応召義務は、「診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」という強い規範です。しかし、これは決して「患者の要求をいかなる状況でもすべて受け入れなければならない絶対的な義務」ではありません。

現場の医療スタッフや経営陣が最も判断に迷うのは、患者さんの言動が明確な暴力や大声での威嚇といった分かりやすい迷惑行為ではなく、「クレームを申し立てる」「医療機能評価機構や医師会などの第三者機関に調停を申し立てる」、あるいは「裁判所に訴訟を提起する」といった、法的に認められた正当な手続きの枠内で行われる場合です。

近年、医療現場における理不尽な要求や暴言は、労働施策総合推進法の文脈でもカスタマーハラスメント(一般的な検索用語としてカスハラと呼びますが、医療現場の実態に合わせてペイシェントハラスメント、すなわちペイハラと捉えるべき問題です)として社会問題化しています。しかし、訴訟提起という行為自体はハラスメントではありません。だからこそ、現場には以下のような強い葛藤が生まれます。

第一に、報復と誤解されることへの恐れです。訴訟提起という正当な行為の直後に診療を打ち切れば、「自分たちを訴えた気に入らない患者を排除した」という悪印象を周囲や裁判所に与えかねないという不安が、現場の毅然とした対応を鈍らせます。

第二に、権利行使と信頼関係喪失の混同です。「権利を行使されたこと」自体と、「その権利行使の過程で明らかになった双方の信頼関係の状態」は、本来まったく別の問題です。この区別があいまいなまま、「正当な権利を使われたのだから、こちらとしてはひたすら我慢するしかない」という思考停止に陥りがちなのが実情なのです。

弘前簡易裁判所判決から読み解く、診療拒否の具体的な判断基準

ここで、実際の裁判例を見てみましょう。事の発端は平成22年8月5日、不妊治療(体外受精における卵子培養)を受けていた患者Aさんとその夫Bさんが、「卵子培養の過程に過失があった」として、青森地方裁判所弘前支部に損害賠償請求訴訟を提起したことでした。

請求の内容は、慰謝料等1830万円という高額な金銭的賠償に加え、謝罪文の交付、さらには関連学会への事案の報告まで求める非常に厳しいものでした。さらに、裁判所に提出された訴状には、病院側が事前に行った説明を「誠意のない言い訳にすぎない」と一方的に評する記載もありました。

この訴状が病院に送達されたのが同年8月24日です。これを受けて病院側は、約3週間後の9月13日付で「転医および診療延期のお願いについて」と題する書面を患者側に送付し、9月24日に予定されていた次回の診察予約をキャンセルしました。

これに対し患者Aさんは、この「診療予約のキャンセル(診療拒否)」こそが不法行為にあたるとして、改めて損害賠償を求めて弘前簡易裁判所に提訴しました。訴えられたから診療を拒んだ、それは違法だという主張です。

しかし、平成23年12月16日、弘前簡易裁判所はこの患者側の請求を棄却しました。つまり、病院側の診療拒否は適法であると認めたのです。判決では、以下の三つの要素が揃う場合に、診療拒否には「正当な事由」があると判断する枠組みを示しました。

  1. 診療の基礎となる信頼関係がすでに失われていること
  2. 診療・治療に緊急性がないこと
  3. 代替となる他の医療機関が存在すること

裁判所は、本件においてこれら三つの条件がいずれも満たされていると結論づけ、病院側の対応を支持しました。安全配慮義務や善管注意義務を果たすための基盤となる信頼関係がなければ、安全な医療の提供そのものが成り立たないという医療現場の現実を司法が汲み取った重要な判断と言えます。

現場を守るための「三本足の椅子」という考え方

私はこの裁判所の判断枠組みを、現場の医師や看護師の方々に説明する際、「三本足の椅子」に例えてお話ししています。

「信頼関係の喪失」「緊急性のなさ」「代替医療機関の存在」という三本の脚がしっかりと揃って初めて、「診療拒否は正当である」という椅子が安定して自立します。もし、このうちどれか一本でも欠けてしまえば、椅子はバランスを崩して倒れ、診療拒否は違法と評価されるリスクが極めて高くなります。

例えば、目の前で大量出血しているような緊急性の高い病状であれば、「緊急性のなさ」という脚が一本折れてしまいます。また、離島やへき地などで、車で通える範囲に代替する医療機関が全く存在しなければ、「代替医療機関の存在」というもう一本の脚が折れます。

現場の感情に任せて、これら三つの要素をすべて確認せずに「もうこの患者は診なくていい」と独断で判断することが、いかに法的リスクを伴う危険な行為であるかがお分かりいただけると思います。組織の仕組みづくりとして、この三要素を常にチェックする体制を持つことが、医療ガバナンスの観点からも極めて重要です。

第一の論点:権利行使の「形式」ではなく「中身」をどう冷静に評価すべきか

この判決から私たちが学ぶべき最大の論点、つまり私が強くお伝えしたい一つ目の主張は、「正当な権利行使をされたこと自体を理由に診療を拒否することはできないが、その過程で破壊された信頼関係を理由とすることは正当行為になり得る」という点です。

この事件で問題になった患者側の言動は、直接的な暴言や居座りといった典型的なカスハラ(ペイハラ)ではなく、「裁判を受ける権利」という正当な権利の行使でした。だからといって、「裁判を起こされたから、その腹いせに診療を拒否してもよい」という図式で病院側が勝ったわけではありません。

裁判所が重視しているのは、訴訟提起という行為そのものではなく、その訴訟手続きの中で患者側が示した「主張の内容」や「病院に対する態度」です。本件では、病院側が誠意を持って行った医学的な説明を、頭ごなしに「誠意のない言い訳」と切り捨てる訴状の記載などが問題視されました。

不妊治療という、医師と患者の高度な信頼関係が不可欠な医療行為において、こうした言葉を公の書面で投げつけること自体が、今後の診療の前提となる信頼関係がすでに完全に失われていることを裏付ける決定的な事実として評価されたと考えられます。

つまり、裁判を起こしたという「形式」だけを理由に診療を拒否することは許されません。しかし、その権利行使の「中身」やプロセスが、双方の信頼関係がすでに修復不可能なまでに崩壊していることを示している場合には、それが診療拒否を正当化する重要な事情の一つとして考慮されるということです。この二段構えの冷静な理解が、現場の実務では非常に重要になります。

第二の論点:厚労省通知が示す「転院」と信頼関係喪失の組み合わせ、および転院の位置づけの整理

そして私がもう一つ、このブログで強く主張したいのが、「転院(転医)」を求める際の法的な立て付けと、病院としての対応の位置づけについてです。

このお話を整理する前に、前提として現場の皆様にぜひ徹底していただきたいことがあります。それは、「いま自分たちが患者さんに求めている転院は、どのような趣旨や位置づけのものなのか」を、組織として明確に理解し整理しておくことです。

一般論として、転院を求める背景には大きく分けて三つのパターンが考えられます。 一つ目は、患者本人の病状や、高度医療・専門医の必要性、地域医療における各病院の役割分担などに基づき、「純粋に患者本人の適切な診療をさらに進めるため(医療機能の分担のため)」に行う転院です。 二つ目は、先ほどから述べているような、裁判での言動などに起因する「信頼関係の喪失」を主たる理由とする転院です。 そして三つ目は、「本人の診療をさらに進めるため」と「当院との信頼関係の喪失」の「両方の意味合い・趣旨を併せ持った」転院です。

現場が「自分たちは今、どの立ち位置で転院をお願いしているのか」を自覚していなければ、患者さんへの説明の軸がブレてしまい、さらなる不信感や紛争を招きかねます。自分たちの対応の位置づけを事前にしっかり理解しておくことが、あらゆる対応の土台となります。

その上で、厚生労働省のルールを見てみましょう。令和元年(2019年)12月25日に出された厚労省の通知(医政発1225第4号「応召義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」)は、診療拒否や退院、そして転院に関する明確な基準を示した文書です。

この通知の中で、「転院」については、高度化・分業化が進む現代の医療機関同士の連携において、「それぞれの役割に基づく機能分担として転院を求めることは、原則として正当な理由とされる」と記載されています。

しかし、現場でトラブルや裁判を抱えた患者さんへの対応を考える際、この「医療連携や機能分担を理由とした転院」という表現だけでは、あまりに抽象的で理由として弱いと感じないでしょうか。患者さん側からすれば、「まだここで診てほしいのに、なぜ一方的に他の病院に行けと言うのか。裁判を起こしたことへの嫌がらせではないか」と反発されるリスクが残ります。通知が示す「転院自体」はあくまで一般論であり、個別のトラブル患者への対応としてはピースが足りないのです。

だからこそ、先ほどの「訴訟の手続きの中で主張された言動等に基づき信頼関係がすでに失われている」という事実を、ここに組み合わせる必要があります。

病院側は単に「当院の役割は終わったので転院してください」と抽象的な理由を告げるのではありません。「客観的な検査と適切な説明を尽くしたにもかかわらず、訴訟等において当院の医療行為を一方的に過失と断じ、説明を不誠実と決めつける言動が繰り返されている。これでは、安全な医療を提供するための土台となる信頼関係が存在しない。したがって、患者さんの今後の適切な診療を進めるため、そして医療機関としての善管注意義務や安全配慮義務を全うするためにも、他院への転院を求めざるを得ない」という論法をとるのです。

厚労省通知が認める「医療連携・分業としての転院の原則」に、裁判手続き等を通じて明らかになった「信頼関係の喪失」という客観的事実をプラスする。この組み合わせの手法を用いることで、初めてその転院勧告(事実上の診療拒否)は、誰の目から見ても強固で説得力のある正当な理由として成立します。これが、私が現場の皆様にぜひ知っていただきたい二つ目の重要な論点です。

👉 厚生労働省の通知による転院のルールや、実際の最高裁判所での判例などを踏まえたカスハラ・迷惑行為への具体的な対応策については、以下の記事でも詳しく解説しています。本記事とあわせてぜひご一読ください。 『【最高裁判例に学ぶ】病院を守る「転院」の正しい使い方 ― カスハラ・迷惑行為への毅然とした対応』 (https://shibaken-poli.com/wp-admin/post.php?post=1743&action=edit)

現場での応用と実践1:紛争対応とペイシェントハラスメント対策を切り分ける二本立ての仕組みづくり

ここからは、より実践的な現場での応用について考えてみましょう。

以前、ある整形外科のクリニックからご相談を受けた事案があります。足首の拘縮治療のためリハビリに通院していた患者さんが、そのリハビリの過程で反対側の健康だった足まで痛めてしまったとして、「これは明らかな医療ミスだ」と強く主張されたケースです。事後のレントゲン検査やカルテ記録を専門家を交えて確認したところ、通常のリハビリの手順や善管注意義務は十分に尽くされており過失は認められず、長期間続く痛みとの因果関係も検査結果からは医学的に裏付けられませんでした。

このような場面で、私が一貫して現場の皆様にお伝えしているのは、「医療ミスの有無をめぐる純粋な紛争」と、「それ以外の執拗な面会要求や度重なる長時間の拘束といったペイシェントハラスメント(ペイハラ)行為」を、最初から完全に二本立てで分けて処理するという仕組みづくりです。

前者(医療ミスか否か)については、当事者である病院自身が「うちには絶対ミスはありません」と突っぱねるのではなく、医師会の医事調停委員会といった客観的な第三者機関の判断に委ねる方針を丁寧に伝えます。この領域については、もはや病院の窓口で感情的に押し問答を続ける余地はありません。

そして重要になるのが、もう一つのベクトルである「ペイハラ対策」です。後者、すなわち検査結果等の説明がすでに十分に尽くされているにもかかわらず、当事者間で同じ主張を何時間も繰り返したり、職員に対して執拗な面会や謝罪を要求したりして、日々の医療業務を大きく止めてしまうような迷惑行為については、組織の安全と他の患者さんへの医療提供を守るために一切妥協せず、毅然と断るという明確な切り分けを行います。

ここでよく聞かれるのが、「では、この第三者機関への申し立て手続きや裁判が行われている期間中は、どんなに態度が悪くても診療を拒否できないのか」という質問です。

これも先ほどの論点に照らせば答えは明確です。申し立てや裁判という「手続き」を理由に診療は拒めません。しかし、適切な説明を尽くしているにもかかわらず、「医療ミスだ、誠意がない」と攻撃的な主張や言動を変えずに続け、スタッフの業務や安全を脅かすペイハラ行為に及ぶ態度は、まさに信頼関係の喪失を示す決定的な事実です。この客観的な評価を根拠に、厚労省通知の考え方も加味して、転院の勧告や事実上の診療見直しという選択肢を適法に検討することができるのです。

現場での応用と実践2:緊急性の見極めと代替医療機関を確保する具体的な手順

先ほどの「三本足の椅子」のうち、残る二本の脚である「緊急性」と「代替医療機関」についても、現場での実務を深掘りしておきましょう。

「緊急性の有無」という要素は、生命や身体に重大な影響が直ちに生じるような救急性の高い病状でない限り、通常の外来診療や慢性疾患の経過観察であれば、「直ちに命に関わる緊急性はない」と評価できる場面が実務上は多いはずです。

もっとも現場を悩ませるのは、「どのくらいの期間的余裕があれば、緊急性なしと言い切れるのか」という時間軸の問題です。拙速に「明日から来ないでください」と結論を出すのではなく、患者さんが必要な医療を受けられない空白期間を生じさせないよう、例えば「お薬は1ヶ月分出しますので、その間に次の転院先を見つけてください」といった、一定の合理的な期間的余裕を確保した上で判断することが望ましいと考えます。

これに対し、「代替医療機関の有無」という要素は、病院側が能動的に確保しにいくべき要素です。

理想を言えば、転医先となる医療機関へ事前に紹介状(診療情報提供書)を送付し、受け入れの了解まで取り付けておくことです。しかし実務上は、紹介状に当院における信頼関係の破綻や訴訟トラブルの経緯を正直に書けば書くほど、受け入れ先が及び腰になり、かえって転院先が見つからなくなるというジレンマに陥ります。

そこで現実的な解決策として、少なくともこれまでの治療経過をまとめた紹介状は必ず作成しておくこと。そして、同程度の診療が可能な医療機関が地域に複数想定される場合には、あて先の医療機関名をあえて「空欄」にした紹介状を患者さんご本人にお渡しするという対応も、代替医療機関を確保するための誠実な努力の一つとして、選択肢に入れておくべきだと思います。

「代替医療機関が見つからなかったから仕方なくうちで診療を続けた」と言い訳するのではなく、「転院に向けた紹介状の発行など、病院としてできる限りの努力を尽くした上で、なお当院での診療継続の見直しを断行した」という客観的な記録を残せるかどうかが、組織を守る最大の盾になります。

現場での応用と実践3:同席する家族への対応と労働施策総合推進法の視点

生殖医療などの場面でご夫婦がそろって手続きに関わっていたように、実際の診療の場には患者さんご本人だけでなく、配偶者や、高齢の親御さんに付き添うお子さんなど、ご家族が同席する場面が少なくありません。ここで実務上悩ましいのが、診療拒否や面会制限の検討対象を、患者さんご本人だけに限定すべきか、それとも同席してクレームを言うご家族にまで広げて考えてよいのかという問題です。

ここで参考になるのが、労働施策総合推進法とその指針が示すハラスメントの考え方です。令和8年10月1日からは対策のさらなる強化・義務化が見込まれていますが、この法律の枠組みでは、ハラスメントの行為者を単なる「顧客(患者)本人」に限定せず、事業に関係を有する者として広く捉える整理がなされています。

この趣旨に照らせば、ご家族が患者さんご本人と一体となって、長時間の居座りや同一の理不尽な主張、スタッフへの迷惑行為を繰り返しているという事実関係が記録として積み上がっている場合には、ご家族を含めた総合的な対応(病院への立ち入り制限や面会方法の見直しなど)を検討する十分な材料になり得ると考えます。

ただし、今回ご紹介した弘前簡裁の事案では、先行する訴訟の原告には夫であるBさんも名前を連ねていましたが、争われた「診療予約のキャンセル」という行為そのものの相手方は、あくまで治療を受けていた患者Aさんご本人でした。

この判例をそのまま強引に家族全体に当てはめるのではなく、「そのご家族が具体的にいつ、どこで、どのような言動を、患者さんご本人と一体となって行っていたか」という事実を、日頃から個別のカルテやインシデントレポートに正確に記録しておくことが、将来の組織の判断を支える欠かせない土台になります。

おわりに

いかがでしたでしょうか。「患者が裁判に訴えた」「弁護士を立ててきた」という表面的な事実だけを見て、現場が過度に身構えたり、逆に萎縮して理不尽な要求に我慢を重ねたりする必要はありません。

大切なのは、その権利行使の過程や日々のやり取りの中で、双方の信頼関係が実際にどのような状態にあるのかを客観的に見極めることです。自分たちが求める転院がどのような位置づけ・趣旨のものなのかを明確にした上で、厚労省が示す「機能分担に基づく転院」という正当なルールに、この「信頼関係の喪失」という事実を組み合わせる。そうすることで、初めて現場は自信を持って毅然とした対応(転院の勧告や事実上の診療拒否)をとることができます。

弘前簡裁の判決は、医療機関が萎縮しすぎることなく、しかし決して独断でもなく、公正な手続きを踏んだ上であれば、正当な範囲で患者さんとの診療のあり方を見直せることを示してくれています。

私は、元警察署長としての危機管理経験や、財務省・国税庁への出向経験を経て、現在は看護学校の講師や福岡市医師会の安全対策支援アドバイザーを務めております。これまで依頼に応じて市内の病院で数多くの相談対応や研修・講話を行ってまいりました。

「訴訟を起こされた患者さんへの対応を、このまま続けていいのか判断がつかない」 「自分たちが求める転院を、法的にどう整理し説明すればよいか悩んでいる」 「医療ミスの訴えと、それに伴う迷惑行為(カスハラ・ペイハラ)への対応を、どう切り分ければよいか分からない」

もし組織の安全管理やハラスメント対応などでお困りのことや、ご相談になりたいことがあれば、どうぞ遠慮なく柴田建一(シバケン)までご相談ください。また、担当者が個別でお悩みの場合もあるようですが、決して一人で抱え込まず、安心してお気軽にお声がけください。

本日も最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。日々患者さんと真摯に向き合って、命を守る最前線に立っていらっしゃる医療現場の皆さまに、心より敬意を表します。今日もお疲れ様です。

【事案分析と解決の設計士:柴田 建一(シバケン)】

👉 公的エビデンス:厚生労働省の公式指針はこちら 組織として講ずべきハラスメント対策の公的な基準については、厚生労働省発出の以下の指針をご確認ください。 【厚生労働省】労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」 (https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf)

  • 参考判例:弘前簡易裁判所 平成23年12月16日判決(先行事件:青森地方裁判所弘前支部、提訴日 平成22年8月5日)。判例解説記事(メディカルオンライン医療裁判研究会「患者から訴訟提起された場合に診療を拒否したことが適法とされた事例」https://www.medicalonline.jp/pdf?file=hanrei_201506_02.pdf )
  • 公的エビデンス:厚生労働省「応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について」(令和元年12月25日医政発1225第4号)
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次