【カスハラ対策義務化】改正労働施策総合推進法で必須となった相談窓口 パワハラ窓口との違いと病院が押さえるべき体制づくり

目次

■ はじめに

「相談窓口は作った。でも、いざという時に本当に動けるだろうか」。そんな不安を抱える病院やクリニックの方は少なくないと思います。

2026年10月1日、改正労働施策総合推進法(いわゆるカスハラ防止法)が施行され、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策はすべての事業主の義務になりました。医療現場でいえば、患者さんやご家族からのカスハラ、つまりペイシェントハラスメント(ペイハラ)への備えです。その柱の一つが「相談窓口の設置」です。

ところが、カスハラの相談窓口は、パワハラの窓口や内部通報の窓口と同じ感覚で作ると、現場ではほとんど動きません。本ブログでは、各種法令が求める相談窓口と比べながら、カスハラ窓口だけが持つ「司令塔」としての性格を明らかにします。そして、その窓口を本当に機能させるために何が必要かを、現場での経験を交えてお伝えします。

■ カスハラ義務化で必須となった相談窓口 実は他の法律でも求められている

2026年2月26日、厚生労働省は『事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(令和8年厚生労働省告示第51号、以下「カスハラ指針」)を告示しました。そこでは、事業主が必ず講じなければならない措置の一つとして、「相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備」が挙げられています。

しかし、「相談窓口を置きなさい」という要請は、カスハラが初めてではありません。病院や企業には、すでにいくつもの法律が窓口の設置を求めています。主なものを整理すると、次のとおりです。

  • パワハラの相談窓口:労働施策総合推進法第30条の2。大企業は2020年6月、中小企業も2022年4月から義務になっています。
  • セクハラ・マタハラの相談窓口:男女雇用機会均等法第11条・第11条の3、育児・介護休業法第25条にもとづくものです。
  • 内部通報の窓口:公益通報者保護法第11条。従業員301人以上の事業者には、窓口の整備と、通報に対応する「従事者」の指定が義務づけられています。2026年12月1日には改正法が施行され、行政の命令や立入検査の権限が加わります。
  • 患者さんの相談窓口:診療報酬の「患者サポート体制充実加算」の施設基準です。患者さんやご家族の不安や質問に応じる窓口で、病院にとってはなじみ深いものだと思います。

このほかにも、労働安全衛生法の健康相談、パートタイム・有期雇用労働法の雇用管理に関する相談、障害者雇用促進法の合理的配慮に関する相談など、さまざまな法律が「相談を受ける仕組み」を求めています。そして、そこに今回、カスハラの相談窓口が加わったわけです。

カスハラ指針も、カスハラの窓口を他のハラスメントの窓口と一体的に置くことも考えられる、としています。そのため、「うちはすでにパワハラの窓口があるから、そこにカスハラも追加すればよい」と考える方も多いでしょう。もちろん、受付の入口を一つにまとめること自体は問題ありません。ただ、その窓口が担う仕事の「性格」は、まったく違うのです。

■ これまでの窓口は「中立」と「独立」が命だった

パワハラやセクハラの窓口を思い浮かべてください。相談の対象は、上司や同僚など、組織の内側にいる人です。窓口は「すでに起きたこと」を丁寧に調べ、事実を確かめます。その結果は、行為者への懲戒や配置転換につながることもあります。

だからこそ、この種の窓口に最も求められるのは「中立性」です。実際、パワハラの指針(令和2年厚生労働省告示第5号)も、事実の確認が難しい場合には中立な第三者機関に紛争の解決を委ねることを例示しています。いわば、裁判所に近い立ち位置です。

内部通報の窓口は、さらに「独立性」が大切になります。通報されるのは組織そのものの不正であり、ときには経営陣自身が対象になるからです。消費者庁の『公益通報者保護法に基づく指針』(令和3年内閣府告示第118号)は、組織の長や幹部に関係する事案について、その人たちからの独立性を確保することを求めています。利益相反を排除することも求められています。

つまり、これまでの相談窓口は、「少し距離を置いて、公平に調べる」ことに価値がある窓口でした。患者さんの相談窓口も、患者さんと医療者の対話を助ける立場であり、当事者から一歩引いた位置にいます。

■ カスハラ相談窓口は「今、動いている事案」と向き合う

では、カスハラの窓口はどうでしょうか。決定的に違う点が二つあります。

  • 相手は組織の外にいる:行為者は患者さんやご家族です。懲戒処分はできません。できるのは、退去のお願い、警告、警察への通報、弁護士への相談といった、病院としての外に向けた判断です。
  • 事案が今も続いている:大声を上げる患者さんは、今この瞬間も外来にいます。長電話は明日もかかってきます。そしてその患者さんは、来週も受診に来ます。

カスハラ指針を読むと、この「進行中」という性質がよく分かります。指針は対処の例として、「労働者から管理監督者等に直ちに報告し、その場の対応の方針について指示を仰ぐこと」を挙げています。現場対応が難しいときには「本社・本部等へ情報共有を行い、指示を仰ぐこと」も示しています。特に悪質な事案については、対処の方針をあらかじめ定め、そのとおりに対処できる体制を整えるよう求めています。

つまり指針は、現場に「今どう動くか」を指示する人が組織の中にいることを前提にしているのです。カスハラの窓口は、話を聞いて記録を作る「事務局」であると同時に、現場を動かす「司令塔」でもある。これが、他の窓口との一番大きな違いだと私は考えています。

警察の現場でも、事件が動いているときに一番大切なのは、情報が一箇所に集まり、そこから迷わず指示が出ることです。情報がばらばらで、誰が決めるのか分からない組織は、必ず対応が遅れます。病院のカスハラ対応も、まったく同じです。

■ 院長だけでは回らない だから窓口に権限を委ねる

ここで、「指示を出すのは院長や事務長ではないのか」と思われた方もいるでしょう。たしかに、病院としての基本方針や対処の中身を決めるのは院長です。これは時間をかけ、状況をよく把握したうえで決めればよいものです。

しかし、悪質な事案へのその場の判断はどうでしょうか。その患者さんは以前にも同じようなことがあったのか。どの職員がどんな対応をしてきたのか。弁護士や警察にはどうつなぐのか。判断に必要なこうした情報は、すべて窓口に集まっています。院長が即断するにしても、窓口の支えなしには判断できないのが現実です。

院長がすぐに動ける小さなクリニックなら、それでも回るかもしれません。けれども、院長が手術中のときや不在のときはどうでしょうか。院長に一つひとつ上げるまでもない事案はどうでしょうか。院長がすべての窓口業務を把握して自ら対応するというのは、現実的ではありません。

だからこそ、院長から窓口へ、あらかじめ権限を委ねておく必要があります。私は、次の三つを仕組みとして整えることをお勧めしています。

  • 窓口が自ら決められる範囲を文書で決める:退去のお願い、録音の指示、複数人での対応への切替えなどは窓口の判断で動けるようにします。一方、出入りの禁止や診療の制限など、応招義務に関わる判断は院長の決裁とします。暴行や脅迫など犯罪に当たり得る行為への警察通報は、誰の許可も待たず現場で行えるようにしておきます。
  • 事後の報告の道筋を決める:窓口が自ら判断した事案も、院長には必ず報告します。院長は個々の事案に関わらなくても、全体の様子はつかんでいる状態を保ちます。
  • 振り返りだけは別の場で行う:カスハラ指針は、病院側の不適切な対応が原因になっている場合にも留意するよう求めています。指示を出した窓口が自分で自分を採点することにならないよう、事後の検証は委員会などで行います。その方が、窓口の判断の正しさもかえって守られます。

■ 一度きりではない 「続けていく」窓口であること

カスハラ窓口には、もう一つ大切な性格があります。それは「継続性」です。

私は福岡市内の医療機関で、依頼をいただいて研修や講話を繰り返し行っています。ある小さなクリニックでは、この3年間で4回お話をしました。正直に申し上げると、前回お話しした内容は、次の回にはほとんど忘れられています。そこで毎回、同じ大切な内容に新しい情報を加えて、繰り返しお伝えしています。

でも、忘れてしまうのは当然のことだと私は思っています。医療の現場は、人手不足や働き方改革の影響もあり、決して十分な態勢とはいえません。その中で、人の命と健康に関わる仕事をしているのです。目の前の患者さんに一生懸命になれば、録音や記録よりも命を守ることが先になるのは、むしろ自然なことです。

それでも、繰り返すうちに確かな変化が起きています。ハラスメントの相談そのものが減ってきました。ちょっとしたやり取りでも録音することが当たり前になりました。そのおそれがあるやり取りは、カルテなどにもきちんと記載されるようになりました。そして、そうした情報を集め、共有し、全体をそっと見守っているのも、相談窓口なのです。

内部通報の窓口は、いざというときに公平に動けることが何より大切です。それに対してカスハラの窓口は、日々の小さな変化を拾い続け、現場の気づきを育て続ける窓口です。「動かす」力と「続ける」力。この二つがそろって初めて、ペイハラ対策は現場に根づきます。

■ 厚労省のカスハラ指針が求める研修 窓口担当者には「一段高い学び」を

こうした役割を担う以上、窓口の担当者や責任者には、他の職員よりも一段高い力が求められます。

カスハラ指針も、担当者が相談の内容や状況に応じて適切に対応できるようにすることを求めています。その例として、次の三つを挙げています。

  • 関係部門との連携:相談の内容に応じて、担当者と関係部門が連携できる仕組みを作ること
  • マニュアルにもとづく対応:留意点をまとめたマニュアルをあらかじめ作り、それに沿って対応すること
  • 担当者への研修:相談を受けたときの対応について、担当者に研修を行うこと

ただ、司令塔としての窓口を担うには、これだけでは足りません。その場で判断し、指示し、助言するためには、法律の根拠や裁判例、行政の指針、社会の動きを、日ごろから自ら学び続ける姿勢が欠かせません。さらに、その判断は個人の考えではなく、病院の方針にもとづくものでなければなりません。専門的な知識と、病院の方針への深い理解。その両方が必要なのです。

「窓口の担当は事務の方にお願いしておけばよい」というものではありません。ここにどれだけ力を注げるかが、そのまま病院のカスハラ対策の力になります。

👉マニュアルを形式的に備えるだけでは、「書いてないから対応できない」という消極的な姿勢を生む危うさがあります。マニュアルがマイナスになる面や、現場での真の活用方法については、以下の記事もぜひご参照ください。 『【現場目線のマニュアル論】カスハラ対策義務化で問われる「書いてないから動けない」組織の危うさ』 (https://shibaken-poli.com/2026/10/01/%e3%80%90%e7%8f%be%e5%a0%b4%e7%9b%ae%e7%b7%9a%e3%81%ae%e3%83%9e%e3%83%8b%e3%83%a5%e3%82%a2%e3%83%ab%e8%ab%96%e3%80%91%e3%82%ab%e3%82%b9%e3%83%8f%e3%83%a9%e5%af%be%e7%ad%96%e7%be%a9%e5%8b%99%e5%8c%96/)

■ カスハラ相談窓口は院長の直轄に置く

窓口が病院の方針にもとづいて判断し、動きを企画するには、院長との厚い信頼関係と、日ごろからの密接な連携が欠かせません。そのため私は、カスハラの相談窓口は院長の直轄として置くことが最も機能すると考えています。

いくつもの部署を経由する窓口では、動いている事案に間に合いません。また、窓口が「院長の代わりに決めている」ことが職員全員に伝わっていなければ、現場は窓口の指示で迷わず動けません。院長直轄という立ち位置そのものが、窓口の判断に重みを与えるのです。

そして何より大切なのは、院長をはじめとする全員が、この窓口の重要性を理解していることです。窓口を担う人の質を高めることは、そのまま職員を守る力になり、患者さんへの医療を守る力にもなります。

■ 最後に 窓口は「人」で動き、「人」を守る

カスハラの相談窓口は、紙の上で設置しただけでは動きません。パワハラや内部通報の窓口が「公平に調べる」窓口だとすれば、カスハラの窓口は「現場とともに動き、現場を守り続ける」窓口です。事務局であり、司令塔であり、そして現場の気づきを育てる場所でもあります。

だからこそ、そこに座る人を育て、院長がその人を信頼し、全員がその役割を認めることが大切です。忙しい現場で、学んだことを忘れてしまうのは当たり前です。忘れてもよいのです。何度でも思い出せるように、窓口がそばにいて、繰り返し伝え続ければよいのです。その積み重ねが、職員の笑顔と、患者さんへの安心な医療を守ると私は信じています。

私は、警察署長としての危機管理の経験や、財務省・国税庁への出向経験を経て、現在は福岡市医師会の医療安全対策支援アドバイザーや看護学校の講師を務めております。これまでご依頼に応じて、市内の病院やクリニックで多くの相談対応や研修・講話を行ってまいりました。

「相談窓口を作ったが、誰にどこまで任せてよいのか分からない」「窓口担当者に何を学んでもらえばよいのか」「研修をしても、すぐに忘れられてしまう」。そんなお悩みをお持ちの方は、どうぞ遠慮なく柴田建一(シバケン)までご相談ください。組織としてではなく、窓口の担当者お一人で悩んでいらっしゃる場合も、安心してお気軽にご連絡ください。

本日も最後までブログをお読みいただき、ありがとうございました。日々、地域の命と健康を支えておられる医療現場の皆様に、心から敬意を表します。今日もお疲れ様です。

【事案分析と解決の設計士:柴田 建一(シバケン)】

👉 公的エビデンス:厚生労働省の公式指針はこちら 組織として講ずべきハラスメント対策の公的な基準については、厚生労働省発出の以下の指針をご確認ください。 【厚生労働省】労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における顧客等の言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和8年厚生労働省告示第51号)」 (https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001662584.pdf)

公的な参考資料

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